第6回1000字小説バトル
Entry14
教室の窓から蜃気楼が見えた。もわもわした大きな島が突然僕た ちの前に現れて、大きなヤドカリみたいだと思った。パーマ屋の娘 が水鳥みたいな靴屋の娘とおしゃべりをしながら帰っていった。僕 は一人でエリーゼというお菓子を食べながら山を越える道を歩き、 昨日見た洋画のことを考えていた。もしあのパーマ屋の娘が昨夜の オードリーヘップバーンみたいな帽子を被ったとしたら? 案外よ く似合うかもしれない。僕は海洋生物学者になって地中海からギリ シャ時代のイルカに乗った少年の彫刻を発見する。細長くて丁度こ こと同じような坂道を白い車に乗って右へ左へハンドルを切って、 いつの間にか淡いピンクのまるで桃の薄い皮みたいなスカーフを首 に巻いておしゃれなサングラスをした彼女が僕の頬にキスをする。 「あり得ないことではない」 誰かが背中でそうつぶやいた。 シルクのスカート、まぶしい脚線美、プラチナの耳飾り、外国の 有名なファッションデザイナーの紙袋、食べかけの葡萄、開かれた 窓、日傘、ため息、夜明けに2人で聞く波の音。全部夢はない? 「そう、夢ではない」 僕はそう言ってもらいたかった。だけどなにも聞こえなかった。 「生意気なのよ。あなたは」 そう言って僕の腕をつねった彼女が実は瓜の花ではなくて、僕の お姫様であったとは。 地面では蟻たちが行列を作って僕のこぼしたお菓子や蝶の死骸を せっせと運んでいた。
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