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第6回1000字小説バトル
Entry15

5年目の七夕

作者 : 小沢 純
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文字数 : 1000
 あの日。
彼女が戴帽式を終えて、正看護婦になった日。真紅の薔薇の花束を
差し出しながら、彼は言った。
「今、カリアダが近くに来てるんだ。俺、あっちへ渡って事業を始
めてみようと思うんだけど。」
言葉の表では、相談しているのだが、彼の決心が着いているのは、
彼女には解る。
 その日、彼女が待っていたのは、別の言葉だった。

 移動都市カリアダ、その移動性を生かした交易で栄えていると聞
く。移動しているためパケットメイルは届くが、電話は使えない。
彼がそこへ行ったら彼女と話すことは叶わなくなる。反対しても、
懇願しても無意味と知っているから、彼女は何も言わない。彼は、
いつも自分一人で決めてきた。
そして、次の日、彼はカリアダへ渡った。

 最初のうちは、思い出したように彼からのパケットメイルが彼女
のところに届いた。彼女は、看護婦として働きながら、不安定な
日々を過ごしていた。3年が過ぎてカリアダの消息も分からなく
なった頃、彼女にも別の恋人ができたりした。けれど、どの人も長
くは続かなかった。彼への気持ちが消えることがなかったからだろ
う。

 彼女の周りの友達は、みな幸せそうなカップルになってゆく。素
直におめでとうといえない自分に、彼女は自己嫌悪していた。
もう、彼の事は忘れよう、何度そう自分を納得させようとしただろ
う。

 ある日突然、彼女のメイルボックスに彼からのパケットメイルが
届いた。
それには、ただ一言「電話くれ」と電話番号が書かれていた。
すぐさま震える手でダイアルする。
呼びだし音、そして回線がつながった。

「友香ですが、」彼女が問いかける。
「俺だ、元気か ?」紛れもなく彼の声だった。
「うん。 」涙声になりそうなところをこらえて答える。
「友香をずいぶん待たせたけど、・」彼は、そこで言葉を切った。
意を決するような呼吸がひとつ、受話器を通して彼女に聞こえた。
彼は続けた。
「俺と来ないか? 一緒に暮らそう」彼は、言った。
「うん」涙が、ぼろぼろ流れた。
彼女が5年前に待っていた言葉だった。
せき止めていた思いが、一気に流れ出してきて、止まらない。
「これから、迎えに行く」彼は、そう言って電話を切った。

 受話器を持ったまま、彼女は現実を噛み砕いていた。既に言葉で
は言い表せな想いが、彼女を幸福に包んでいた。受話器を置いた
時、電話の横のカレンダーに気づいた。

「今日は、七夕だったんだね」

 涙でぐしゃぐしゃの顔を上げて、彼女が笑った。






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