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第6回1000字小説バトル
Entry20

はなし声

作者 : 竹原 秀
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文字数 : 640
 暗い部屋の中で一人、おれは薄い壁越しに声を聴いていた。

「ねぇあなた、今度はどんな子が生まれてくるかしら」
「どんな子だろうと構いやしないさ。男の子でも女の子でも、無事
に丈夫に生まれてくれれば、それでいい」
「そうよね。でも、前の子のことがあったから、私どうしても...」
「気にするなよ。もうすぐ、新しい子が生まれてくるんだから」
「でも」
「いいから」
「わかったわ...」
「仮に子供がいないにしたって、僕たちは充分幸せじゃないか」
「でも、いつもこのお腹をさする度に、心配になってしまうわ。無
事に生まれても、どんな子に成長して行くのかって」
「大丈夫だよ。僕と君の子供だよ、素直に育つさ」
「そうね、そうよね。あなたに言われたら、私もそんな気がしてき
たわ。私たちが育てるんだもの。すくすくと健康に成長してくれれ
ば、特別な才能なんて持っていなくたって構わないわよね」
「そのとおりさ。他人と違った才能なんて必要ないよ。そんなもの
が一体何になるっていうんだ? 他人からいじめられたり、疎外さ
れる理由になるだけさ。腐ったこの世の中ではね」
「そうよね、平凡がいちばんよね」
「ああ、平凡であることが何よりも難しい。しかし、最も幸せなこ
とでもあるんだ。僕と君のようにね」
「愛してるわ、あなた」

 二三度眼を瞬かせた後、さかさまの姿勢のまま、おれは臍の緒で
首を吊った。
 その日の夕方頃、精肉工場のフックのようなもので、おれは世界
へ掻き出された。
 おれは、また、誕生に失敗した。
 おれには、もう、チャンスはなかった。






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