第6回1000字小説バトル
Entry21
とても暗い。 私の視覚は正常に機能しているのであろうか?感覚が異常に研ぎ澄 まされ、眼球の上を瞼が滑っていく触覚を感じている。目を開けて いるのは間違い無いようだが、時折見える暖かい赤い色以外は何も 見えない。 耳を澄ますと、大量の水が流れる「ごーん…どーん…」という重低 音がどこか近くからどこか遠くから聞こえてくる。 辺りには生臭い匂いが漂い、ガン!とした息苦しさを感じる。ここ は一体どこなのだろう? 不安と恐怖が渦巻いているが、体全体が大きな何かに委ねられ、体 全体がゆらゆらと揺れている、それが非常に心地良い。 そうだ!私は部屋で油絵を描いていたんだ。あの絵を描き終えたと 同時に私の記憶は遠のいて、側にひいてあった布団に倒れ込んだん だ。それから!そうだ。それから…それから私はどうしたのだろう? その後の記憶が思い出せない。油絵を描き終えて私は…。倒れたと いう事は病院に運ばれたのだろうか?とその時 「痛い!うー…あー…っくぐぅ」 女の苦痛に歪む声が部屋いっぱいに響き渡った。やはりここは病院 なのだろうか?何かの手術をしているのかもしれない。いや待てよ、 病院でそのような声を出す事があるのだろうか?病院であれば麻酔 をかけるのだから、苦痛に歪んだ声が聞こえるとは考えにくい。 だとしたらここは一体どこなんだ。それよりも私はここで何をやっ ているんだ。いや私は一体誰なのだろう。 「あああああああ!ふぅふぅ」 また同じ女の声が聞こえてきた。初めて聞く声にもかかわらず、 この声はどこかで聞いた事がある気がする。苦痛に歪む声なのに優 しさと暖かさを感じた。どこで聞いたのだろう。記憶ではなく感情 で聞いた覚えがある。生まれた時からこの声を聞いていた気がして ならない。 彼は何気なく頭に手を持っていき鼻の頭を掻いた。 こ、この感触は。そうか思い出したよ。私は遠い昔ここに来た事が あるんだ。この声が聞こえるという事はそろそろ時間なのかもしれ ない。それならば私が誰であろうと、もう関係ないではないか。 彼は考える事をやめて、これから起こる事への心の準備を始めた。 そのうち彼を包み込んでいたものは、定期的に緩やかな運動を始め る。そして部屋のドアは徐々に開かれ、ある時を境に一斉に開かれ るだろう。彼を別の世界へと誘うために。 とても明るい
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