第6回1000字小説バトル
Entry28
今日で何回目だろう、老人ホームにボケたお婆ちゃんのお見舞い に行くのは。 僕はその日、おかしなおばあさんに会った。おかしなというより、 その人は正常だった。元気で、背筋もピンと伸びてて、何よりボケ ていなかった。僕はどうしてこんなまともなおばあさんが老人ホー ムにいるのだろうかと思っていた。その人は本当にどこも悪くなか ったのだ。その人は一度もベッドに座ろうともせず、何か仕事を見 つけてはせかせか動いていた。何かに向かって戦っているようにも 見えた。 その人は僕と僕の姉にいろいろ話しかけた。とてもここにいる人 とは思えない軽快な話し振りで、時折冗談も交えて。 そしてその人は花瓶の水を換えながら呟いた。 「これじゃ籠の鳥だ」 呆れたように、苦笑いを含めながら。 この人はいつもどんな気持ちでここで生活しているのだろう。周 りには話の通じない人ばかり。この人はここにはいてはいけない人 だと思った。この人はこんなに元気で人の良いおばあさんなのに、 こんな所にいては気がおかしくなって本当にここにいる人達と同じ になってしまうのではないかと思った。 何も知らない僕の父親は、そのおばあさんにかわいそうな人を扱 うような口調で何か話し掛けていた。おばあさんは受け答えした後、 少し悲しそうな顔をしていた。
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