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第6回1000字小説バトル
Entry29

恋情

作者 : 太郎
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文字数 : 930
 萎びた婆の乳房を立てかけたような丘の上に座り、ゆっくりと暮
れ行く空模様を眺めた。
 草は少し枯れて、ねじれたその先端を黒い蟻が這いずっている。
「ねえ、どうする」
「どうするって、何をさ」
「産んでもいいの」
 僕は隣に座る遥子の横顔を盗み見た。
 お世辞にも美人とは思ったことのない顔だ。その低い鼻と、突き
出た歯茎を拳で叩き折り、滅茶苦茶にしてやりたい衝動を感じた。
 粉微塵に、跡形もなく。
「こんな女が俺の伴侶になるのか」
 巣を離れた幼い蜘蛛の糸が、ふと睫毛にかかり、世界にある何も
かもが吐き気を催す薄汚い臭いを放ち始めた。
「駄目だって言ったら、何か考えがあるの」
 遥子は黙って答えず、顔を伏せたまま茶色の草を一握り千切って
風にのせた。
「さあ、」
 こんな女を便利使いして、こんな出来損ないの身体の奥に、粘る
精を打ち込んだ自分が疎ましかった。
「どうする」
 ふいに空が赤く染まり、陽が西の地平線に達した事を知らせた。
 遥子の肌が染まり、柔らかい、吸い込むような匂いを発し始めた。
「どうにかなるわよ」
「そうかな」
 ふいに遥子の低い鼻も、突き出た歯茎も、丸く大きな額も、遥子
らしい塊にまとまり出した。
「うん、どうにかなるよな」
「そうよ」
 僕に子供が出来た。
 来年の今ごろは、その子を抱いてまたここに来る。
 小さな透明な蜘蛛が僕の頬を伝い、掌に落ちた。






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