第6回1000字小説バトル
Entry30
「絨毯みたいに」と言う表現そのままに黄色い菜の花が緩やかな丘 の斜面を埋めつくしている。空は青く、風が若葉の香りを運んでく る。 「おべんと食べましょ〜♪ みんなで食べましょ〜♪ 」 丘の中腹では近隣の幼稚園児たちが仲良くお弁当を広げていた。 「せんせー、つとむ君お花とってるよー」 いち早くお弁当をたいらげ、さっそく走り回っているのは腕白坊主 の「つとむ君」。 彼の手には引き抜かれた菜の花がブラブラと揺れている。 「こら! 」 先生の声に園児たちがワァーと歓声を上げる。つとむ君は怒られる 前にサッサと逃げ出した。 「待ちなさい」 しばらく続いた追い駆けっこも、先生がつとむくんの襟首を掴んで 終った。 「駄目じゃない、お花を採っちゃ」 先生は跪いて、つとむ君の目を覗き込む。 「なんで? 」 つとむ君はキョトンとして聞く。 「お花も生きてるんだから可哀相でしょ」 先生がため息を吐く。つとむ君は下を向いたきり黙り込んでしまっ た。何気なくその視線を追って先生がギョッとなる。そこは小さな スミレが咲いていたのだが、その茎と葉は先生の足の下敷きになっ ていたのだ。 「おはようございまーす」 「おはよう」 腕白坊主のつとむ君も今年は6年生。ご近所の人にもチャント挨拶 できる、真面目で礼儀正しい優等生と評判だ。 そのつとむ君が今日は重大な決意を固めて学校に向かっている。 彼に決意をさせたのは昨日の理科の時間だった。 その日、教室はいつもより騒がしかった。何故なら今日の理科の 実験は蛙の解剖なのだ。 「先生、蛙が可哀相だよ! 」 つとむ君が持ち前の正義感を発揮した。 「大丈夫、この蛙は解剖される為に生まれてきたんです」 先生は蛙を掴み上げ、みんなを見渡した。 「この蛙もみんなの為に解剖されるのを喜んでいます」 そう言って先生は蛙のお腹にナイフをザクリと刺した。 菜の花は採ちゃ駄目。でも雑草は採るんだ。 牛や豚を食べるけど、クジラは可哀相。 先生は人も花も同じように生きているから大切にしなさいと言っ た。でも大切にされない花もある。それが何故なのか昨日わかった。 みんなが大事にしているのもは、大事にしなきゃいけない。でも 嫌われているもの必要ないものは違う。それがみんなの為になるな ら躊躇う必要なんかない。 乱暴者のあいつ。あいつのせいで僕のクラスは目茶苦茶なんだ。 僕はポケットの中のカッターを握り締める。きっとみんなも喜んで くれるはずなんだ。
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