インディーズバトルマガジン QBOOKS

第6回1000字小説バトル
Entry34

女

作者 : リツコ
Mail :
Website : http://www.sol.dti.ne.jp/~photo
文字数 : 930
 もうすぐ、トモコとあの人の結婚式がはじまる。

 いつもはラフな格好の私が、今日だけは違っていた。念入りに化
粧をし、一番カカトの高いヒールを履いている。仕立ての良さそう
なワインレッドのスーツも、この日のためにわざわざ買った。
 バックの中に入れてある包丁も、同じ日に買った。
 式場の庭を見ると、穏やかな風景が広がっている。萌える新緑。
キラキラと光る池の水面。礼服に身を包んだ人々の笑い声。空には
飛行機雲が南から北へと、一筋の鋭い線を描いていた。
 真っ青なキャンパスを切り裂いたようだわ。
 そう思うと、少し顔が綻んだ。

<結婚式、出てくれるでしょう?>
 トモコの声が、頭の中で蘇る。
<だって、ほら、あなたがいたから彼と知り合えたわけだし…。そ
れに、ねえ、彼の幸せそうな顔、見せてあげたいわ>
 笑いながら、勝ち誇ったようにまだ続く。
<あなたが堕した彼の子供、私が代りに生んであげるから、安心し
てね>
  
 手が震えてきた。
 怖れや迷いで、ではなかった。嬉しさのあまりに、身体が反応し
ている。きっと、今、私は穏やかな顔になっていることだろう。
 あの人への愛情がこうさせるのか、トモコへの憎しみがそうさせ
るのか、もう分からない。
 分かるのは、たった一つだけ。
 今日が、私の晴舞台になるということ。だからこそ、一番綺麗で
ありたかった。もう一度、化粧なおしをしてこようかしら。どうせ
なら、写真映りはよくありたいもの。

 あと、残り時間、十五分。






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