第6回1000字小説バトル
Entry34
もうすぐ、トモコとあの人の結婚式がはじまる。 いつもはラフな格好の私が、今日だけは違っていた。念入りに化 粧をし、一番カカトの高いヒールを履いている。仕立ての良さそう なワインレッドのスーツも、この日のためにわざわざ買った。 バックの中に入れてある包丁も、同じ日に買った。 式場の庭を見ると、穏やかな風景が広がっている。萌える新緑。 キラキラと光る池の水面。礼服に身を包んだ人々の笑い声。空には 飛行機雲が南から北へと、一筋の鋭い線を描いていた。 真っ青なキャンパスを切り裂いたようだわ。 そう思うと、少し顔が綻んだ。 <結婚式、出てくれるでしょう?> トモコの声が、頭の中で蘇る。 <だって、ほら、あなたがいたから彼と知り合えたわけだし…。そ れに、ねえ、彼の幸せそうな顔、見せてあげたいわ> 笑いながら、勝ち誇ったようにまだ続く。 <あなたが堕した彼の子供、私が代りに生んであげるから、安心し てね> 手が震えてきた。 怖れや迷いで、ではなかった。嬉しさのあまりに、身体が反応し ている。きっと、今、私は穏やかな顔になっていることだろう。 あの人への愛情がこうさせるのか、トモコへの憎しみがそうさせ るのか、もう分からない。 分かるのは、たった一つだけ。 今日が、私の晴舞台になるということ。だからこそ、一番綺麗で ありたかった。もう一度、化粧なおしをしてこようかしら。どうせ なら、写真映りはよくありたいもの。 あと、残り時間、十五分。
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