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第6回1000字小説バトル
Entry36

不細工の女

作者 : のぞみ
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文字数 : 820
  …あたし、ブスだし、髪だってこんなバサバサして、その上すっ
ごい曲毛。仕事だって見付かるわけないわよ。ほんと、駄目なの。
あーぁ、あたしだって小さな頃は可愛いっていわれてたのに。なん
でこんなにも不細工になっちゃったのかな。ほんと、駄目。何やっ
ても巧くいかないの。と、そう訴えた彼女は私の目から見れば充分
やっていける容姿だった。髪など手入れをすればどうとでもなる。
仕事など真剣に探せばどうとでもなる。そんな気がした。
 彼女はコーヒーカップを置くと鞄から煙草を取り出し、つい先ほ
ど私の前で塗り直していた紅色の唇へそれを落した。一息、大きな
白い煙を出し、また例のやや口篭った話し方で私に対した。
 …ねえ、知ってる? 煙草の煙ってさ、肌にとっても悪いんだっ
て。それに吸ってる本人よりも周りの人の方が害あるんだって。そ
りゃそうよね、こんな密室だったら、まるでサーモンの燻製つくっ
てるようなもんよね。そりゃそうよね。でも、いいんだ。あたし、
ブスだし、少々肌が悪くなったところで、ふふっ、ねえ、と彼女の
吐き出す煙はこの店内を漂い、白く濁った空気が覆い被さる。無論、
私もこの空間にいるのだ。
 私は疑問であった。彼女の中に燻る憂鬱がどこから産まれてきた
のかを。彼女の内なる悪はいつ産まれたのかを。なぜなら、カラン
ッと扉を開け入って来た客をちらりと見やるため振返った彼女のそ
の横顔は、決して充分にやっていけるどころではなく、はっと息を
呑むほどの美を備えていたのだから。恐らく、私ではない誰かの目
を通して彼女を見たとしてもその美しさは変わらないと思う。なら
ばいっそう疑問に思う、彼女のこの不満を。
 …あたし、世の中を変えてやりたい。人の価値を変えてやりたい。
そうすればもっと、あたしが受け入れられるのに。ねえ、どう思う?
 あたし、生きる時代を間違えっちゃたのかな。
 紅に染まった煙草、灰皿からこぼれた灰、抜け落ちた一本の髪、
私は白い煙の中に彼女をじっと見ていた。






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