第6回1000字小説バトル
Entry38
同級生の和田愛子に、「当たって砕けろ」の精神で告白した俺は、 ものの見事に砕け散ってしまったのだった。 自分という人間が否定された気持ち。 相手がいくら言葉を選ぼうとも、そんな気分は晴れる事はなかった。 だが、俺には唯一の趣味、空手があった。 憂さを晴らすように俺は稽古に励み、一念発起してオープントーナ メントに出場する事にしたのだった。 強い者、勝った者が絶対の世界だ。 だから、俺は空手が好きだった。 ルールは、中段はライトコンタクトで直接打撃可能、上段は寸止め。 地方のオープントーナメントらしい、大雑把なルールだった。 試合開始。 相手は、上沼という同い年の高校生だった。 「おらぁっ!」 俺は地面を蹴って飛びこみながら上段に突きをぶちこんだ。 上沼は防具の上からとはいえ、モロに突きを受けてのけぞった。 「止め!白、反則注意!」 これで上沼は戦意がなえるか、逆上して荒っぽい攻めをしてくるか のどちらかだろう。 俺の作戦だった。 戦意がなえれば、追いこんで次々とポイントをとってやる。 攻めてくるなら、カウンターをとってやる。 ところが、上沼はどちらでもなかった。 俺がどんなに荒い攻めをしても、直接顔面を叩いてこなかった。 堂々とした構えは崩れる事は無く、的確に突きは寸止めをし、蹴り は当たった事だけをこちらに伝えるライトコンタクトだった。 ローキック気味の足払いを仕掛けても、それは変わらなかった。 試合は僅差で俺が勝った。 上沼は結局、一発も強打を当ててこなかった。 俺は、礼の後、上沼を視線で追っていた。 その視線は、やがて何と和田愛子をとらえたのだった。 和田は、俺と目が逢うと小さく頭を下げ、そして、上沼にタオルと 一緒に、ぱちぱちとかわいい拍手を送ったのだった。 そうか…… 俺は、今ごろになって、和田愛子が俺を振った理由がわかったよう な気がした。 上沼と付き合っていなかったとしても、和田は俺という人間を選ば ないような気がした。 和田は、上沼により沿うようにして、観客席に戻っていった。 出なおしだな。 二回戦のコートに向かいながら、俺は武道場の窓から見える青空に 目をやり、妙に力が抜けているのを実感し、上沼の、あの堂々とした 構えを思い出していた。 和田愛子が選んだのは、あの構えに違いなかった。 俺自身は、これからどんな構えを作っていけるのだろうか……
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