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第6回1000字小説バトル
Entry4

アル中

作者 : Bailey
Mail :
Website : http://members.aol.com/Hiroem
文字数 :
’この酒を飲めば楽になる’

 俺はいつからこの厄介な麻薬にとりつかれたのだろう。   
 やつはコップにひたひたに溢れんばかりに注がれてこっちを見つ
める。

’こいつは俺をどうする気なんだ?’

 アルコールの匂いが木造の屋敷の隅々までほとばしる。

’飲んでくれよーたったの一杯じゃないか’

 透明の身体を光らせると、安っぽいセールスマンのように俺に問
いかける。やつは知らず知らずに身体の中に染み込んで、 細く白い
腕にうっすら緑に浮き出る血管さえもがこいつを恋しがる。
  
 ’何が楽になるんだ? 何から楽になりたいんだ?’
  
 さっぱりわからない。ただ人恋しくなる。人がそばにいても、女
と寝ていても。こいつらは俺が捨てた女の怨念なのか。彼女らの涙
を呑み干せといわんばかりに悪魔がささやく。

 俺がこいつを口にした瞬間、もう一人の俺が存在する世界へやっ
てくる。俺には女房と子供が二人いて、小さな一軒家に4人で暮ら
している。庭でバーベキューをやるんだと、芝生の上にピクニック
用のテーブルや椅子を並べ、女房は台所で野菜や肉の支度をしてい
る。小学校3年になる長男が肉の用意ができるまでキャッチボール
をしようとせがむ。しばらく子供の相手をした後、のどが渇き缶ビ
ールを手に取った。

「パパ、飲んじゃだめだよ。お願いだから飲まないで」

「なに言ってんだよ、これがパパの一番の楽しみさ」

 心配そうな顔で俺を見上げる長男に言い聞かせながら、再び缶ビ
ールに視線をやると、程よく冷えて汗をかいているやつは、俺を誘
うように銀色の身体をくねらせた。唇に近づけると、熱い吐息をも
らす。褐色の液体が俺の舌に絡み付く。 

 その瞬間、再び世界が変わった。

 転がった一升瓶と同様にそこいらに横たわる妻と子供。寝ている
のか? と一瞬思ったが、ほおや手足に紫色のあざがある。 所々に
は血がにじんでいる。妻を起こそうとした瞬間、彼女が冷たくなっ
ている事に気付いた。

’冗談だろ。 また別の世界に迷い込んだにちがいない’ 
  
 俺は苦笑して、 空になりかけている一升瓶のくちから酒を飲む。






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