第6回1000字小説バトル
Entry46
六月。 雨の月。 あじさいの月。 天から流るる恵みの水は、すべてを静かに優しく包みこむ。 「あぁ、降りだしちゃったよ」 クラスメートの良絵がぼやいた。 「今日は大丈夫かなーっと思ってたのに…」 「あら、私、雨は好きよ」 私は、そう口に出した。 静かに響く雨の音は、それ以外のすべてを覆い隠す。 「恵美が好きなのは木曜日の雨でしょ。木曜はバスケ部、休みだも ん」 「えー、そんなことないよー」 良絵がため息まじりでからかうのを、笑ってゴマかす。 「じゃ、今日は先に帰るから。がんばってねぇ」 良絵は、バタバタと帰り支度を済ませてカバンと傘を抱えると早 々と教室を出て行った。それを見送ると頃合いを見て席を立つ。 「よしっ!」 深呼吸をして気合を入れると、私は傘を手に下駄箱の方に向かっ た。 私が下りて行くと、下駄箱の前で空を見上げてはタメ息をついて いる人影がいた。幼なじみの明弘だ。梅雨どきだというのにまた傘 を忘れたらしい。 家が近所で小さいころからの付き合いなのだが、昔からのおっ ちょこちょいは一向に直る気配はない。 「まいったなぁ」 外の雨はいよいよ本降りである。傘なしで帰るのは至難のワザだ。 「仕方ない、入れてってやるか」 口の中で呟いた。つい、自分の顔がほころんでしまうのが分かる。 「まぁた傘忘れたのぉ、明弘」 照れ隠しに、冗談めかして言う。 「うるさいな」 「仕方ない、また私が入れてってあげよう」 「いいよ、別に。走って帰るから」 「ほほう」 私はニヤリと笑う。 「この雨の中を?家まで?風邪ひいちゃうよ」 「うっ」 「次の試合、いつだったっけ?風邪ひいたら試合に出れないよねぇ」 バスケット部のレギュラーである明弘はこの言葉に弱い。 しばらく口をぱくぱくしていたが、観念した様に言った。 「分かったよ。入れさせてくれよ・・・」 「よろしい」 私は笑いながら傘を開いた。 あじさいのちりばめられた、淡い紫色の傘。 女の子が持つにしては少し大きめ。二人入っても濡れない様に。 「俺が持つ」 明弘が傘を奪ってかかげた。 「俺の方が背が高いからな」 言い訳がましく言う。 「ほいほい」 私はおとなしく傘に入った。彼のとなり。 「行くぞ] 二人で雨の中に踏み出した。 まわりで水滴が踊る。 六月。 雨の月。 あじさいの月。 傘を忘れるおっちょこちょいの私の想い人。 だから、私は、雨が大好き。
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