第6回1000字小説バトル
Entry47
自室でキーを叩いていると電話が鳴った。理由もなしに無視する 事は出来ないので受話器を耳につける。女の声だ。間違い電話、と 言うことはなさそうなので、きっと何か俺と関係のある女なのだろ う。話を聞いてみる。 「今、渋谷なんだけど、終電逃しちゃって。良かったらこれから来 ない」 きっと俺は彼女に好感を持っていて彼女が終電に乗り遅れた時に は自分に連絡する様に言っていたのだろう。そうか、もう夜中だも のな。 しかも、そう言っておけるという事はお互いの家が、さほど近所 ではないにせよそう遠くもない事にもなる。多分惚れた弱みって奴 か、急いで車に乗り込む。バックミラーに自嘲的に笑ってもみる。 彼女を見付け車に乗せる。もうここは渋谷だ。助手席に乗ったそ の顔を見て美しさをまた、再確認したりもする。始めて美しいもの に出会った時さながらの動悸がいつまでも消えない。そうだ、俺は この美しさに惹かれていたのだ。 「ごめんね、来てもらっちゃって。今日何してたの」と、彼女。彼 女から電話を受け取るまで何をしていたか、という意味だろうが 「キーを叩いている」という行為がPCを使っていたのか鍵盤楽器 を演奏していたのかは、その言葉だけでは確定できない。だから、 キーを叩いていた、とだけ答え誤魔化す事にした。そうだ。俺とし ては電車に乗り遅れた理由くらいは聞かねばなるまいな。 何でも会社の友人の関係で数人が集まり合コンのような事で飲ん でいたという。「エミんちに行っても良かったんだけど」俺へ連絡 したらしい。 電話が鳴った。彼女が出る。だから俺のではなかったのだ。つま り彼女の電話という事になる。最初の言葉は「お疲れさまあ」それ を聞いて俺も何故かどっと疲れてきた。「うん、そう。終電乗れな くってねえ、今エミとぶらぶらしてるの」相手は男性で今日の合コ ンに参加した奴なのだろう。何となく腹が立ったが、車が突然クレ ーンで吊るされているかのごとくぶらぶら揺さぶられ始めてそれど ころではない。この状況に驚いているのはどうやら俺だけみたいだ。 あれ、後部座席に知らない女がいる。きっとこの女がエミなのだろ う。バックミラー越しにお互いが気まずく会釈をする。 「しばらくしてからタクシーでエミんちに行こうと思ってるんだけ ど、え。居ないよ、そんな。迎えに来てくれる人なんてえ」 俺は消えてしまって以降の事は判らない。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。