第6回1000字小説バトル
Entry52
「小学生の頃って何になりたかった?」 前触れもなく圭太が言った。 「どうしたんだよ、こんな時に突然」 「お前ら、わかってんのか!」 課長の声がそれを遮る。今月に入って何度目の説教だろうか。営 業成績が落ちているのは気合いがたらんからだと、いつもの決まり 文句が始まった。気合いで物が売れればそんなに苦労はしない。言 わせてもらえば、せめて売れそうなものを作ってくれ。全自動蒲団 叩き機なんて、どこの誰が買うんだ。 「俺、歌手になりたっかったんだ」 圭太が呟くように言った。 「小学生でか? 普通は野球選手とか、学者とかだろ、それから金 持ちになりたいって奴も多いよな。女は花屋とケ−キ屋だな」 「いいか、必要があって商品があるんじゃない、商品があって必要 を作るんだ!」 課長の声が大きくなる。後30分は終わらないな。 子供の頃の夢を叶えることのできる人間っていったい何人いると思 う?」 それでも圭太は話をやめなっかった。 「なりたい職業となれる職業の区別がつくのが大人ってもんだろ」 「俺達、いつから自分の能力や才能に見切りをつけるようになった んだろう?」 「俺は高校の頃かな、期末試験で、すっげえ勉強したのに順番が20 番くらいしか上がらなったんだ。その時、俺は自分を諦めたね。夢 を見るってことは自分自身を諦めないことなのかもな」 「そこ、聞いてるか!」 課長が僕らのほうを見る。 「はい、聞いてます」 「いいか、わしが新入社員の時は」 また課長の昔話が始まった。いつものパタ−ンだ。 「諦めないか、難しいな」 「そうだな」 「もう一度、夢を見る権利はあると思うか?」 「権利はあるさ…権利だけは」 次の日、圭太は会社を辞めた。 僕は相変わらず課長に怒鳴られながら、売れもしない商品の営業 に行っている。 この間、小学生の頃の卒業アルバムを久しぶりに開いてみた。そ こにはこう書いてあった。 大きくなったらウルトラマンになりたいです。 僕の夢は叶いそうにない。
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