第6回1000字小説バトル
Entry53
コインランドリー。 いつものように私はあそこに行く。歩いて5分ほどの、小さなコイ ンランドリーだ。6時すぎは人がまばらで、どこか別の空間のよう だ。 私は、まるい窓を開け、洗濯物を入れる。一つ、二つといれ、蓋 を閉め、コインを入れる。近くにあった雑誌をを手に、座ろうと すると、ひとの気配を感じた。 彼だった。 彼は相変わらずシャツにジーンズという姿で現われた。彼は決ま って、手前の窓を開ける。この日も同じ窓。 洗濯物が入れ終わると、いつものように煙草に火をつける。 しかし、いつもと違ったのは、彼女が現われたことだ。 彼女は険しい顔付きで、この空間に入ってきた。 「あなたは何を考えているの。わたしはどうでもいいわけ?」 彼は黙っていた。まるで苔の生えた岩のように。 彼女は一方的に声を荒げるだけで、彼はただ、床を見つめている。 ようやく口を閉ざした彼女は、彼の頬に自分の手をかざそうとし た。しかし、それよりも先に、彼の手がきれいに弧を描いて、彼 女の手を捕らえた。 そして彼女と彼は止まった。 私が我にかえったのは、けたたましいブザーのせいだった。 持ってきたバックに洗濯物をつめながら、ちらと彼を見る。 彼は子供をあやすように、彼女に寄り添う。 それは紛れも無く、あの二人の姿だった。 私は洗濯物を確認して、彼らの横をゆっくりと過ぎて行った。 少し歩いて、後ろを振り向いても、彼らの姿は二つ、くっきりと 影が伸びている。 帰りにコンビニに寄り、いつも飲まないビールを買った。 店を出て、空を見上げると、オレンジ色がまばらであることに気 がついた。 私は、家へ帰らず、近くの公園で足を止めた。 「彼は彼女が好き・・・なんだ。」 口にだしてもどうにもならない。分かっていたはずなのに、つい 口にしてしまう。言えば言うほど、下らない言い訳が聞えてくる。 彼ハ彼女ガ好キ。イイジャナイ。ドウセ話モシタコトモ無ンダカ ラ。 ビールは相変わらず私には美味しくない。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。