第6回1000字小説バトル
Entry55
女に会いにいく。 夫が、単身赴任先で、浮気をしている女だ。 こともあろうに、私と別れて、その女とやり直したいと言ってき た。あんな面白くもない夫に、よく女が作れたものだ。どうせ、大 したことのない女だろうと、自分に言い聞かせながら、駅を出た。 「…あの?」 地味なパッとしない女が声をかけてきた。 この女か。反射的に殴りそうになったが、みっともないまねはし たくなかった。右手が動こうとするのを、ぐっと抑えた。 「ええ、あなたね。主人の…。ここではなんだから、お茶でも飲み ながら、お話しましょう」 頭を冷静にしなくては、そう思いながら、女をじっくりと観察し てみた。髪を、茶色のバレッタで一つにまとめ、はれぼったいまぶ たに、薄い唇。私よりも五歳若いらしいが、そうは見えない。 なんだ、心配して損だったわ。 夫も私を反省させるために、あんな事を言ってきたんだわ。 きっと、そうだわ。熱い紅茶を飲みながら、私は焦りも怒りも消 そうとした。そして、それはうまくいきそうだった。 「ねえ、主人が何をいったかは知らないわ。でも、もう終わりにし てくださらないかしら? 私にしても、遊びとはいえ、主人に女が いるなんて、ねえ?」 親しみを込めた微笑を作った。女の顔は、変らない。おだやかに コーヒーを飲み、欠伸をひとつした。なんて女なの。人がこうして 下手に出ているというのに、反省の色も見えない。少しイライラし てきた。私は、小切手の入った一枚の封筒を出した。 「どうかしら、これですっぱりと別れていただけるでしょう?」 女の顔が、崩れた。泣くかと思いきや、笑いだした。 やはり、ね。お金でカタがつくような女で良かったわ。そう安心 したとたん、女が口を開いた。 「その手切れ金は、奥様のものですわ。あの人から、そう伝えるよ うに言われました。それと、奥様も遊びが過ぎますわ」 そう言いながら、女は鞄から何枚かの写真を出した。 そこには、私が何人もの男に抱かれている姿が写っていた。
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