第6回1000字小説バトル
Entry56
ネオンの明かりが伸びた先にある橋の袂から川辺リを眺めれば、 幼い頃の俺がそこに居た。あの少年の瞳が見つめる先にある川のせ せらぎに幼き日の幻影を重ねあわせるように、俺は今まさに思い出 を取り戻そうとしていた。 思い出は川の風景、にわかに声を掛けられて振り返ると少年が後 ろに立っていた。屈託のない笑顔が向日葵のようだった。ランニン グシャツに半ズボンを履いていて、僕と同い年くらいだったその少 年は、ザリガニの穴に手を入れながら色んなことを考えている僕の ことを気がかりになったんだろうか、蝉の音が耳障りなくらい泣い ている中、横に座り一緒に穴を覗きこんでくれた。 思い出は少年の一生懸命な姿、少年に「どうしたん?」と尋ねら れて「とうちゃんに叱られて家から放り出させて家に返りそこねて るんや」と言ったら、少年は自分の事のように悲しい顔をしてくれ た。そんならザリガニを探したるわと力強く言って小さな背中を向 けて一生懸命になって二人して穴に手を入れた。 日が差してきた頃、麦わら帽子を被るというと、少年は持ってな いと言ったので貸してあげると言ったら照れて頭を掻いた。そして 少年は川向こうを指差した。青々とした緑の向こうに水色がせめぎ あっているのを見て少し怖くなった。少年は「暑いやろ」といって シャツを脱いで水の中に飛び込んだ。そして向こう岸めがけて泳ぎ 始めた。 影が差して暗くなった部分に水に預けた少年の体が届くのを見て、 僕はその瞬間、暗闇に吸い込まれるような気がして、後を追うよう に水に飛び込んだ。 「どこなん?住んでいる家?」二人して向こう岸に渡り、お互い の事を語った。少年は言いにくそうな顔をして、「あっちや」と指 差した。 「通天閣の方やな。そうやろ?」聞き返すがもうそれ以上少年は何 も答えなかった。 「あっちに住んでいる奴は、ガラが悪いから付き合ったらあかんて とうちゃんがいうとったんや。麦わら帽子返してえや」僕がそう言 うと少年は何も言わず麦わら帽子を脱いで僕に手渡した。 「遅なったから家に戻るわ」僕は走って家に向かった。少年がいつ までも僕の後ろ姿を見つめているような感じがして心が痛んだ。 こんな川でも、今は泥に覆われていても思い出はある。ネオンに 色どられた夜の川を見つめる少年を見て不甲斐なくも30年前の夏 を思い出して胸がきしんだ。 「友達は大事にせえよ」俺は心の中で力一杯叫んでいた。 あの頃の二人はもう居ない。
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