第6回1000字小説バトル
Entry58
いくら考えても解らない。なぜ自分がこんな所にいるのか、どう してこんなことになっているのか。まるで異次元の世界に突然飛び 込んだように、僕は何もかも理解することが出来なかった。 辺りは真暗で、どんな格好をしているのかさえ解らなかった。但 し、遙か彼方に少しだけと言ったらオーバーになるくらいの微かな 光源があった。気が付いたらその方向へ歩いている、そんな状況だ った。真暗では何をすることも出来ないし、理解できない状況や思 い出せないついさっきまでのことなど、何か解るのではないか。そ んな思いで、光の射す方へ…… 体中が痛かった。筋肉痛? いや打撲のような痛みがあちこちに あった。歩くにも呼吸をするにも、あちこちでズキンズキンと響い ていく。かなり辛かったが、この異次元空間から脱出する以外道は ない、いやその道しか残されていない。僕は黙々と歩き続けた。 光の射す方へまっすぐ歩いた。真暗闇の中、穴があったり恐ろし い獣がいたりしたらといった恐怖感もあったはずだが、その時の僕 はそんな考えなど浮かびもしなかった。頭は少しクラクラしていた。 歩くにつれ、どうやらここは洞窟のような所だと解った。足下は デコボコ、左右は広かったが、時々頭に何か当たり天井は低かった。 1時間か2時間は歩いただろうか。単調な行動の繰り返しと何も 見えなかったせいもあり、時間の感覚は麻痺していたが、かなり歩 いたことだけは解った。 光はだんだん大きくなり明るくなり、目がようやく使えるように なった。僕はブーツを履き帽子をかぶりかなりの重装備で、そのあ ちこちに血がにじんでいた。まだ肝心の、歩いている前のことは思 い出せなかった。 やっとの思いで洞窟を抜け出ると突然「発見しました」という声 が聞こえ、声の主とさらに2人が僕に近寄り「大丈夫ですか」と尋 ねてきた。そしてさらに10人くらい集まり、彼らに連れられさら に歩いた。まだ解らない…… 少し歩いた所にテントがあって大勢の人がいた。歓声が上がって 「ヨシヒコ」と泣きながら母親が近寄ってきた。僕は自分の名前さ え忘れていたことに気付き、と同時に何もかもを思い出した。 登山をしていた、岩肌を滑り落ちた、遭難したんだ…… 恐怖感と安堵感が交錯し、腰が抜けて動けなくなった。
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