第6回1000字小説バトル
Entry60
科学警備隊のミーティングルームは珍しくも『会議中』だった。 「昨夜、小笠原海域に現れた怪獣について、防衛庁からその対策を 依頼された」 日本地図を背に網島キャップの眉根が歪む。東京湾を指さした。 「現在、怪獣は東京に向かっている」 日吉隊員は光線銃を握る。反町隊員は胸元に手を忍ばせ、何やら 探しはじめる。菊名隊員は「熱いうちに」と特製スープをふるまっ た。 「そこで科警隊の任務だが」 網島キャップは咳払いを挟んだ。 「まずこの怪獣に名前をつけることになった」 隊員たちは立ち上がって「ラジャ!」と声を揃えた。 議論は三時間に及んだ。 海上自衛隊が撮影した怪獣の姿が、スクリーンに映し出されてい る。『怪獣対応マニュアル』を片手に、網島キャップが五十個めの 案を出した。 「チヨギンザンって、どうかな?」 「シコ名じゃないんですから」 日吉隊員がつっこむ。 ――嗚呼、うちの孫がいてくれたら……。 あと半年で定年を迎える網島キャップにとって、怪獣出現ははじ めての経験だ。怪獣世代でないだけに、ネーミングなど浮かぶはず もなかった。 「ツノがあるから、ツノゴン」 「それって、さっき言いましたけど」 菊名隊員が油取紙で顔を押さえながら、舌打ちした。忘れ物を取 りに家へ帰っていた反町隊員が戻ってくる。 「オガサワラー」「ツノゲルゲ」「ペギラ�U世」など、その後も網 島キャップの提案は却下された。 突然、内線電話が鳴る。受話器をとる網島キャップが目をつむっ た。 「まだ決まらんのか!」と防衛庁長官の罵声が轟く。 結局、四時間に渡る討議の末、怪獣の名は「ツノーラ」で落ち着 いた。姓名判断の『人に迷惑をかけないタイプ』という画数が決め 手になった。 「さぁ、現場へ急行するぞ」 威勢良くジェットビートルに乗り込んだ網島キャップは、スリッ パ履きだ。そのお約束ぶりに隊員たちの心が和む。 竹芝桟橋から覗く東京湾は荒れ狂っていた。黒々と波打つ海面が 膨らみだす。並ぶミサイルがそれへ向けられた。 ガオーン。 しぶきを上げながら、ツノーラの巨体が現れた。全長五十メート ルはある。 「攻撃用意」 双眼鏡を胸に指揮官が声をあげた。 「待ってくれ!」 ミサイルの前方に立ちはだかる人物がいた。 「殺すなんて、可哀想じゃないか」 それは目を真っ赤に腫らした網島キャップだった。 「名付け親の私に免じて……」 両手を広げるその姿をひと踏みに、ツノーラは東京上陸を果たし た。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。