インディーズバトルマガジン QBOOKS

第6回1000字小説バトル
Entry67

浮気は一度きり

作者 : たみか
Website : http://www4.justnet.ne.jp
文字数 : 約750
「いってらっしゃーい」
 元気な久子の声に見送られて、今日もボクと淳は会社へ向かう。
久子は毎日同じ時間にボクらを玄関で見送り、そして出迎える。ボ
クの方も「いってきます」と「ただいま」のキスは欠かさない。ず
いぶん長い間、そう、淳がこの家にやってきてからずっと続いてい
るボクらの習慣だ。
 まるで新婚だな、とある友人に言われたことがある。そいつは、
相棒が忙しくてなかなか家に帰れなかった。そしてある日久しぶり
に帰ってみたら、妻は寝取られていて家の中は空っぽ。相棒からの
信用も失って、失意の底に沈んで失踪してしまった。その話を聞い
たときは、まぁ他人事だな、と聞き流していたんだが……

 ここ最近、急に相棒の仕事が忙しくなってきた。当然、淳といっ
しょに行動しているボクの帰宅も遅くなる。午前様は当たり前、会
社に泊まり込むこともあった。それでも久子は、文句ひとつ言わな
い。できた女房だ、とは思ったけれど、何となく、友人の話がひっ
かかっていた。

 そして心配は現実になる。3日ぶりにボクと相棒が帰宅すると、
久子の様子がおかしい。ただいまのキスもしていないのに、玄関の
ドアが開いている。
 淳が慌てて部屋を覗くと、部屋の中はぐちゃぐちゃに荒らされて
いた。泥棒に、入られたんだ!
「だって、淋しかったんだもの」
 か細い久子の声が聞こえる。久子がボク以外のヤツに体を許すな
んて。呆然とするボクに、淳が恐ろしい形相でつかみかかってきた。
「信用してたのに、こんなカギ、役に立たないじゃないか」
 それはボクが久子に言う台詞だろ、と言う間もなく、ボクは床に
たたきつけられた。そのままちゃりん、と跳ね上がって……
 すっぽり、ゴミ箱に入ってしまった。






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