第6回1000字小説バトル
Entry67
「いってらっしゃーい」 元気な久子の声に見送られて、今日もボクと淳は会社へ向かう。 久子は毎日同じ時間にボクらを玄関で見送り、そして出迎える。ボ クの方も「いってきます」と「ただいま」のキスは欠かさない。ず いぶん長い間、そう、淳がこの家にやってきてからずっと続いてい るボクらの習慣だ。 まるで新婚だな、とある友人に言われたことがある。そいつは、 相棒が忙しくてなかなか家に帰れなかった。そしてある日久しぶり に帰ってみたら、妻は寝取られていて家の中は空っぽ。相棒からの 信用も失って、失意の底に沈んで失踪してしまった。その話を聞い たときは、まぁ他人事だな、と聞き流していたんだが…… ここ最近、急に相棒の仕事が忙しくなってきた。当然、淳といっ しょに行動しているボクの帰宅も遅くなる。午前様は当たり前、会 社に泊まり込むこともあった。それでも久子は、文句ひとつ言わな い。できた女房だ、とは思ったけれど、何となく、友人の話がひっ かかっていた。 そして心配は現実になる。3日ぶりにボクと相棒が帰宅すると、 久子の様子がおかしい。ただいまのキスもしていないのに、玄関の ドアが開いている。 淳が慌てて部屋を覗くと、部屋の中はぐちゃぐちゃに荒らされて いた。泥棒に、入られたんだ! 「だって、淋しかったんだもの」 か細い久子の声が聞こえる。久子がボク以外のヤツに体を許すな んて。呆然とするボクに、淳が恐ろしい形相でつかみかかってきた。 「信用してたのに、こんなカギ、役に立たないじゃないか」 それはボクが久子に言う台詞だろ、と言う間もなく、ボクは床に たたきつけられた。そのままちゃりん、と跳ね上がって…… すっぽり、ゴミ箱に入ってしまった。
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