第6回1000字小説バトル
Entry73
僕たちのデートは、こうして始まる。 場所は彼女のマンション。 今日のデート道具は僕が用意する番だった。昨日、本屋で出版さ れたばかりの直木賞作家の本を2冊買った。 これならば、満足するだろう。 ページをめくりたい欲望を、一晩おさえて彼女のところへ急いだ。 「おはよう」 彼女の笑顔がそこにあった。彼女は、僕の買ってきた本を手にと って言った。 「やったー! これ読んでみたかったのよ」 テーブルには紅茶のセットとクッキーが用意してあった。 「食事は?」 「朝食は食べたよ」 「そう、今10時だから、この本を読み終わってからの遅いお昼で いいかしら?」 「もちろん、望むところだよ」 彼女は紅茶を入れ始める。ふたりで並んでソファーに座った。 「いい?」 「ああ」 ふたりそろって本の表紙をめくった。 僕の目は活字を追う。イメージが頭の中で映像になり刺激した。 導入部分に引き込まれる。片手を紅茶に伸ばし、口元まで持ってく ると紅茶の香りが漂った。 彼女を覗いてみると、夢中で活字を追っている。 僕たちはいつも読書デートをする。 読書後は食事をしながら、本の感想を話し合ったりして、本を2 度楽しむのだ。1時間半後に彼女は本を閉じた。それに遅れること 5分後に僕も読み終えた。 彼女は本を投げ出して言った。 「最低!」 「最悪」 僕も呟いた。 実は、ここ9回の読書デートがこのような結果で終わっているの だ。つまり、選択した本がつまらないのだ。読んでも気持ち良くな らないのだ。 「有名な作家だったのに…」 「そういうものに限って面白くないのよ! まだわからないの?」 「この本、読みたかったって、さっき言ったじゃないか」 「新人を発掘しなくっちゃ!」 今回も本を選択した僕が悪いことになった。 でも次は彼女が本を選ぶ番だ。つまらなかったら、ただじゃおか ない。 何でふたりで本を選ばないかって? だってふたりで選んだ本がつまらなかったら、怒りのやり場がな いじゃないですか。
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