インディーズバトルマガジン QBOOKS

第6回1000字小説バトル
Entry77

Japanese Worker

作者 : じろう
Website :
文字数 :
 右手で流れる汗をぬぐいながら、時計に目をやると3時半だった。
 予定より早く着いてしまったようだ。
 今日は、街外れの喫茶店で今度出版する暴露本の打ち合わせをす
る予定になっている。
 (今回は、いいネタをつかんだので、政界には大打撃だな)
 そんなことを考えながら、ぶらぶら歩いていた。

 ふと右に目をやると、1人の男性がうずくまっている。
 人通りが多いわけではなかったが、この通りにその男性を気遣う
者は誰もいなかった。
 私はなんて冷たい人ばかりなんだと小さく舌打ちをして、その人
に駆け寄り、彼をのぞき込んで声をかけた。
 彼は、何も言わず私をはねのけ歩き出したのだが、私は彼の歩く
様が明らかにおかしいことに気付いて、再び駆け寄り彼に断りなく
肩をかした。
 私の目を見ようとしない彼は私の好意をあからさまに嫌っている。
 それでも彼の体が心配な私は、病院へ行くように促した。

 「仕事があるんです」

 彼は私に後ろめたいことでもあるかのように、うつむいたままで
そう言った。
 不似合いの銀縁眼鏡にスーツ姿で右手に大きなかばんを持ってい
る彼は、私が、何度仕事よりも体が大切だと問いても首を横に振る
だけだった。
 私は、彼に嫌気が差して彼の肩からするりと抜けると、何も言わ
ずに彼の後ろ姿を見送った。
 見送りながら私は、日本人というものは何よりも仕事を優先する
人種なんだと妙に納得していた。

 彼のことは忘れようと少し歩いたが、頭の中からこの一件がはな
れることはなかった。
 (彼を待ってる仕事っていったい何なんだろう?)
 そんな意味もないことが頭の中をぐるぐる駆け巡っていた。
  
 待ち合わせの時間が来たので、喫茶店へと向けて歩いて行った。
 少し歩くと喫茶店に着き、気持ちを入れ替えて喫茶店のドアに手
をかけた瞬間

 キュン

 何かが体を通り抜ける。
 胸から血があふれ出る。
 崩れ落ちながら、偶然目に入ったものは、喫茶店の向かいに建つ
ビルの屋上で、大きなかばんをライフルに持ち替えた彼だった。
  
 彼は、自分の仕事をやり遂げた。
 真っ赤な海に顔を埋めながら、胸につっかえていたものが取れた
気がして、薄れていく意識の中、私は微笑んでいた…






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。