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第6回1000字小説バトル
Entry79

地下室のメロディ

作者 : ヒロト
Website :
文字数 : 997
「そして運転手が振り返ると、後部座席に女の姿はなく、」

「水たまりが、でしょ?はい次、えっと、十八話目いきましょう」
「あ、次オレね。これは怖いぞう」
「いいから早くしてよ。私明日仕事なんだから」
「それもある意味怪談だよね。カウントする?」
「しない」
 百物語連盟。そこはカナ子にぴったりのコミュニティであったの
かもしれない。今夜が初参加というだけあって、いささか緊張した
面持ちで臨んだのだが、そのおどろおどろしい名前や内容とは裏腹
の賑やかさに、カナ子は笑いをこらえるのが精一杯だった。嫌な事
はみんな吹き飛んでしまう。最近流暢に話し始めた息子の生意気さ
も、息子を殴る事でしか無能な自分を正当化できない夫の事も。
「ちょっとカナ子、笑っちゃ駄目よ」と肘で小突いたのは、カナ子
をこの会員制秘密クラブに誘いこんだ友人のクミ。順番通りに進む
とクミは三十三話と六十六話と九十九話を担当しなければならない
ので、少し気が立っているようだ。何せ内容が重複してはいけない
という、厳正なるルールがある。
「カナ子がいいよね、初参加者はオブザーバー扱いだもの」
「あら、オリジナル怪談のひとつやふたつ、私用意してるわよ。あ
なた言ってたでしょ?オリジナル怪談なきもの参加するべからず、
って」
 オリジナル怪談とは、その語り手自身の実体験や創作によるもの
で、新しい怪談を生産する行為として高く評価され、連盟の財産と
なる。大抵の場合、広く一般に知られた話から語られる事が多く、
八十一話以降は必ずオリジナル怪談でなければならない。
「それは素晴らしい」と横から口を出したのは、クミの隣りに座っ
ていた会長の鳥越クロウ。黒いマントで怪人ぶりを演出している妙
な男だ。
「じゃあ百話目はカナ子さんにお任せしますよ」
 とんでもない名誉。カナ子は踊り出したい気分になった。だって
百物語は、百話目こそが華なのだから。
 進行するにつれ次々と消されてゆくロウソクの炎が、カナ子には
夜空の星の瞬きにさえ感じられ、湿っぽい地下室はおもちゃ箱のよ
うに見えた。ちょっと練習しておこうかな。
 えーと、いつものように夫が息子に暴行を加えていると今までさ
れるがままだった息子が台所から包丁を持ち出し夫の胸を一突き。
それを見た私が息子から包丁を奪ってこれまた胸を一突き。
 あれ?私を刺したのは誰なのかしら?






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