第7回1000字小説バトル
Entry10
天国のお父さん、お元気ですか?あの飛行機事故からもう1年に なります。今日はなぜか、お父さんのことばかり思い出してしまい ます。お父さんを亡くしてから、私とお母さんにはつらいことばか り。でもそれは当然のことかもしれません。 私は悪い娘でした。お父さんの愛情に気付かず、いつも逆らって ばかりいました。グレて学校は退学になり、煙草や酒どころかシン ナーまで覚え、挙げ句の果てに、誰のものとも分からない子供を中 絶までして...。 本当に私が愚かでした。もう少し早くお父さんの愛に気づいてい れば、こんなことにはならなかったのに。せめてもう一度お父さん に会って、ひとこと謝りたいのです。でも、それは2度とかなわぬ ことなのですね。 お父さんは、こんな娘のことを思い出したくないかもしれません。 でも、お願いです。どうか私のことを忘れないでくださいね。 天国にいるあなた、お元気ですか?あの事故から1年がたちまし た。墜落していく飛行機の中で、自分のシートベルトを締めもせず、 私と娘をかばって力一杯抱きしめていてくれましたね。あのとき、 あなたの腕の中で、このまま死んでもずっと3人一緒だと思ってい ました。なのに、あなただけが天国に召されてしまうなんて・・。 でも、それも仕方のないことかもしれません。あなたにとって私 はろくでもない妻だったことでしょう。毎日疲れて帰ってくるあな たにねぎらいの言葉をかけるどころか、やれ稼ぎが少ないだの、出 世が遅くて体裁が悪いだのと文句をいうばかり。あなたの唯一の楽 しみだった、一杯の晩酌に対してさえけちをつけていました。今思 い出しても恥ずかしくてなりません。 女友達との旅行と偽って、昔の恋人と温泉に行ったこともありま した。あなたはうすうす気づいていたのにじっと耐えていてくれま した。あのときは、それがあなたのやさしさとも気づかず、内心で は、意気地のない男、などと思っていました。 なんというふしだらで、どうしようもない女だったのでしょう。 あなたを失って、ようやく自分の愚かさに気づきました。でも、ど うかこれだけは信じて欲しいのです。 ...愛しています、今でも...。 「おい!いつまでぼーっとしている。さっさと歩け!この亡者ども め!」 血の池地獄からようやく這い出し、わずかばかりの休息を取って いた母親と娘は、今度は灼熱地獄へと追い立てられていった。
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