第7回1000字小説バトル
Entry12
早目に仕事から帰ると、毎年恒例の同窓会の開催通知が来ていた。 都会で生活を始めた俺には、高校の頃の仲間とは疎遠になってい た。忙しさを理由に、何年も同窓会に出席していない。みんな変わ ったろうか。 アルバムを探していると、電話が鳴った。 同窓会幹事の佐藤からだった。こっちに来ているから会おうとい う。懐かしさから呼出しに応じた。 「おぉーっ。生きてたか佐藤」 「おう。幽霊じゃねぇだろうな、鈴木」 互いに薄くなった頭を、笑って叩き、酒を酌み交わし昔話に興じ ていた。 「佐藤さん。こんな所にいたんですか?」 愉快な酒の席に、仕立てのいいスーツにサングラスの男が割り込 んできた。 突然佐藤の顔色が変わった。 「おっと。お客さんに迷惑ですから、お静かに」 なんか、やばそうだ。 「知ってる人なのか?」 「…ちょっとな」 「こちらの方は?」 「…」 「佐藤の友人です」 「あぁ。それじゃ、こちらの方にお願いしたらどうですか?」 「…」 「実はですね。佐藤さんには…」 「止めてくれ。こいつには関係ない」 「…ですが利子だけでも入れて頂かないと、こちらも困るんですよ」 「…借金取りか?」 「いや。鈴木には関係ない。忘れてくれ」 「いったい幾らなんだ?」 「忘れてくれ…」 「少し位なら貸せるぜ」 一戸建ての頭金にと貯めている金額を思い浮かべていると、佐藤 は頭を寄せてきた。 「100万でいい。必ず返す。頼む」 佐藤はその場で土下座した。 「ちょっと待てよ。そんな事するなよ」 俺はちょっと大きな金額にうろたえながらも、酒の勢いで胸を叩 いていた。 その日はさすがに銀行も閉まっているので、翌日の昼に新宿駅で 待ち合わせをして金を渡すと、佐藤は紙切れを俺の手にねじ込み、 挨拶もそこそこに消えた。 紙には電話番号とメモがあった。 『一周間以内に電話をくれ。但し電話する日を事前に俺が知った時 は、すまんが金は諦めてくれ』 一週間以内で知ってはならないという事は、6日間請求しないと 7日目になるから、7日目はありえない。6日目に請求すると、7 日目に請求できない以上6日目になるから、だめだ。5日目に請求 すると…。えっ。絶対請求できないという事じゃないか。 同窓会の会場へ行くと、みんなの笑い声が俺を迎えた。 「やっぱりパラドックスの事を忘れていたな」 佐藤と篠原という借金取りに化けたすっかり変わった級友が、学 生時代に矛盾のある命題の説明を受けた事を思い出させていた。
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