インディーズバトルマガジン QBOOKS

第7回1000字小説バトル
Entry19

駅前風景

作者 : こむらなるなり
Website :
文字数 : 599
 何の変哲もない私鉄の駅。商店街方面の出口を出てすぐ右手にあ
る立ち食いそば屋。店の入り口のガラスには、自分の店が紹介され
ている数年前の地元のタウン誌の切り抜きが無造作なセロテープさ
ばきで貼られている。完全に黄ばみきっているその切り抜きは、い
つつぶれるとも分からないうらぶれたそば屋の、たったひとつ残さ
れたアイデンティティーなのかもしれない。

「お願いしまーす! お願いしまーす!」

 募金箱を持った子供達が天使のような声を振り絞り、駅から吐き
出されるサラリーマンや学生達に募金を促している。良く見るとそ
の子供達の着ている服や手に握りしめた羽根は、腐りかけの洋辛子
のような、なんともえげつない黄色をしていた。俺はその色を見た
瞬間、それが日々俺達の耳腔内から分泌し続けているミミクソの色
であることに気がついた。
 俺は感動した。彼ら彼女らは、日頃人間達からうっとうしがられ
掻き出され続けているミミクソ達に、少しでも人権を与えてあげよ
うと、ああして声を枯らしているのだ。ティッシュにくるまれ、燃
えるゴミとして処分されるミミクソに、確固たる市民権を与えよう
と、ああして駅前に立ち続けるのだ。それに気がついた俺は、思わ
ず賞賛の涙を流さずにはいられなかった。

 俺は例の立ち食いそば屋に入り、夕食をとることにした。しかし
頼んだたぬきそばに浮かんだ揚げ玉が、なんとなく大量のミミクソ
に見えてしまい、ほとんど残して帰った。






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