第7回1000字小説バトル
Entry19
何の変哲もない私鉄の駅。商店街方面の出口を出てすぐ右手にあ る立ち食いそば屋。店の入り口のガラスには、自分の店が紹介され ている数年前の地元のタウン誌の切り抜きが無造作なセロテープさ ばきで貼られている。完全に黄ばみきっているその切り抜きは、い つつぶれるとも分からないうらぶれたそば屋の、たったひとつ残さ れたアイデンティティーなのかもしれない。 「お願いしまーす! お願いしまーす!」 募金箱を持った子供達が天使のような声を振り絞り、駅から吐き 出されるサラリーマンや学生達に募金を促している。良く見るとそ の子供達の着ている服や手に握りしめた羽根は、腐りかけの洋辛子 のような、なんともえげつない黄色をしていた。俺はその色を見た 瞬間、それが日々俺達の耳腔内から分泌し続けているミミクソの色 であることに気がついた。 俺は感動した。彼ら彼女らは、日頃人間達からうっとうしがられ 掻き出され続けているミミクソ達に、少しでも人権を与えてあげよ うと、ああして声を枯らしているのだ。ティッシュにくるまれ、燃 えるゴミとして処分されるミミクソに、確固たる市民権を与えよう と、ああして駅前に立ち続けるのだ。それに気がついた俺は、思わ ず賞賛の涙を流さずにはいられなかった。 俺は例の立ち食いそば屋に入り、夕食をとることにした。しかし 頼んだたぬきそばに浮かんだ揚げ玉が、なんとなく大量のミミクソ に見えてしまい、ほとんど残して帰った。
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