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第7回1000字小説バトル
Entry22

温度

作者 : 根本智也
Website : http://ha3.seikyou.ne.jp/home/tomoya/
文字数 : 999
 べっとりと体中に貼りついた寝汗のせいで、私の目覚めはかなり
悪かった。どうやら寝ている間に部屋の温度が上がっていたようだ。
まとわりつく気だるさを振り払うように起き上がり、空気を入れ替
えようと窓を開けた。途端に冷たい、新しい空気が部屋の中へ入り
込んでくる。先程まで居座っていた生暖かい空気は天井のほうへ上
っていったのだろう。暖かい空気は軽いと、確か中学校の理科で習
った。
 そう、まるで焚いたばかりの風呂の水のように、上は熱く、下の
方は冷たいままだ。風呂に入る時には水をよくかき混ぜなくてはい
けない。おばあちゃんがいつもそう言っていた。小学校の頃、冬の
窓際の席はかなり寒かった。先生に聞くと、空気が動いているから
だと教えてくれた。あれもきっと同じことなのだろう。
 そういえば小学校の理科の実験で、仲の良かった女の子が割れた
ガラスの破片で手を切って酷い怪我をしたことがあった。女の子が
試験管にいきなり熱いお湯を入れたことが原因だった。その時、パ
リンという試験管の割れた大きな音は、違う班にいた僕にもよく聞
こえた。その時はただ女の子の泣き声と彼女の掌から流れてくる真
っ赤な血の色だけが頭に入り、どうしてそうなったのかは全然分か
らなかった。今ならなぜだか分かる。ガラスは熱伝導が悪く、膨張
率が高いから、お湯に触れた内部だけ膨張して、その力で試験管が
割れたのだ。一月前の物理で習ったばかりだ。
 体の中に新しい冷たい空気を取りこむ。僕に寝汗をかかせた生暖
かい空気はすでに部屋の中には存在しない。新しい空気が外へ追い
出してしまった。……確か対流と言うのだったか。固体の時は伝導。
今までとは違うエネルギーを持ったものは、そうやってエネルギー
を伝えていく。そして、やがてすべてが一様になり、静かに新しい
エネルギーを待つのだ。
 身支度を整えながら、ふと、人間も同じなんじゃないかと思った。
転校生が来るたびに妙にどきどきしたこと、転校生が来た早々彼と
喧嘩したこと、転校生をみんなで歓迎したこと、逆にシカトしたこ
と、反対に転校生の周りで新しいグループができ、その中に入れず
に寂しい思いをしたこと。今までに体験したいろいろなことが頭を
巡っていた。

 身支度の最後に、新しい制服に袖を通し、新しい教科書の入った
新しい鞄を肩から下げた。
 ……さて、どうなるかな。
 僕は一人、心の奥でつぶやいた。僕は今日から、新しい高校へ通
い始める。






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