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第7回1000字小説バトル
Entry23

さよならを言いに

作者 : 小沢 純
Website : http://member.nifty.ne.jp/mochimaru/ozawaind.html
文字数 : 982
 自分で焼いていた頃の古いモノクロ写真を整理していたら玲子の
写真が出てきた。玲子は、予備校で知り合った中田の妹で細身の可
愛いタイプで俺好みだった。懐かしいな、と写真をめくっていて思
い出した。

 その年、夏休みも終わりに近い頃、朝早く俺は電話で起された。
大沢の彼女の史江からだった。なんだ、朝からのろけでも聞かされ
るのかと気だるそうな声で電話に出た俺に、半べそかいているよう
な声の史江が言った。
「大沢君が死んじゃったの」
まだ半分眠っていた俺の脳味噌は一気に目が覚めた。何があったん
だ?1週間くらい前に、やつの部屋で酒飲んでギター弾いて一晩騒
いだばかりだった。

 途切れながら話す史江によると、大沢は自分の妹と中田と中田の
妹の玲子の4人で神之島へ泳ぎに行って、昨日の午後、溺れて死ん
だそうだ。中田は、水泳部で泳ぎがうまい。大沢の姿が見えなくて
探しはじめて、海の中に沈んでいる大沢を引き上げたのは中田だっ
たそうだ。

「私、これから島へ行く」史江は、そう言って電話を切った。
翌日、新聞に「シュノーケル初使用で大学生溺死」と小さく出てい
た。

 通夜で中田は半狂乱に近かった。自分の親友を海から引き上げた
上に、死なれてしまってはショックもでかいだろう。史江は、気丈
夫にも
「私より、中田君の心配してあげて」とまで言った。

 納骨も終って、涼しくなった頃、俺はひとりで大沢の墓を訪ねた。
妹が墓まで案内してくれた。俺は、持参したオールドの瓶を持ち上げ
「飲めよな」と心の中でつぶやいた。

 そんなことを思い出して、玲子に電話してみた。玲子はまだ独身
で親元に住んでいた。ちょっと会わないか?と誘うとドライブでよ
ければいいよという返事だった。最近、運転が楽しいらしく黒のセ
リカに乗っているそうだ。玲子らしいな。というのが俺の感想だっ
た。

 玲子の運転で、海辺をドライブしていて大沢の話になった。あの
夜、中田は警察に事情聴取に出かけていて、民宿で大沢の妹と二人
きりのとき、窓の外に人の気配を感じた。二人で意を決して、窓を
開けたそうだ。けれど、誰もいなかった。
 玲子は、前の信号機を見つめながらはっきり言った。
「ぜったいに誰か居る気配がしたの。私、大沢君がさよならを言い
に来たんだと思ってるの。今でも」

俺は、ちょっと背筋が寒くなった。ここを右折すると裏道で近道な
のだけどなと思ったけれど、声に出せなかった。






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