第7回1000字小説バトル
Entry24
九月も下旬になって、漸く季節の変わり目を感じさせるような風 が吹き始めた街。その雑踏を見下ろす窓には大振りのカーテン。そ の脇には大型の観葉植物。それらを背にした事務机に営業第三課の 課長が着席している。営業第三課は、東南アジア諸国を対象にした 輸出入の仲介を主な業務としている。課内は今朝も慌しい。 9:18am 「課長、犬山商事の件ですが」 「なんだ川本、まだ居たのか。早く行かないとだめじゃないか」 「僕、行けません」 「行けませんって、何故だね」 「実は僕河童なんです」 9:26am 「つまり、甲羅は家に置いてきた。頭の皿には植毛を施した。嘴は ちょっと痛かったが削った。背が低いのはシークレットブーツでカ バーした。水掻きはいつの間にか縮んだけど、その理由は河童だか らよく解らないと? そういう訳なんだ。」 「はい、そういう訳なんです」 「でもね、どうやって我が社に入ったのよ。入れんでしょう、河童 は?」 「人事部に父の知り合いが居りまして、あまり問題なく入社できま した。面接でも河童かどうかは聞かれませんでした」 「お父さんの知り合いって、お父さんも河童でしょう?」 「いいえ、里親の方の父で、人間なんです。どうして人間のもとに 里子に出されたのかは、僕河童なんでよく解らないんです。」 9:42am 「俺は部長になんて説明するわけ? 『部長、実は川本君は河童で して、犬の字がつく会社へは外回りに行けません。どうぞ宜しく』 って? とても言えないでしょう。頭が変になったと思われちゃう でしょう」 「でも、課長は部長とはたいへん御親密と伺っております。二週間 前の金曜も二次会、三次会までハシゴで飲んで、夜中の三時過ぎま で大いに語りあったとか。」 「あれはねえ、方便。課内の者にちょっと吹いただけ。実際は九時 前にバイバイして帰ったの」 突然、大きな音を立ててカーテンと観葉植物が動き出し、課長の 両脇を取り押さえた。 「ついに、自供したな。これで二週間前のアリバイは崩れた。麻薬 密売容疑で逮捕する」カーテンが怒鳴った。 「わっ、何をする。待て、待て。こんなものは自供じゃない。第一 これじゃあオトリ捜査じゃないか。証拠にはならないはずだ。手を 放せ」 「確かにオトリ捜査だが、違法ではない。人間の捜査員によるオト リ捜査は違法だが、大丈夫、川本君は河童だ」 課長、カーテン、観葉植物に見つめられた川本君は頭のお皿を撫 ぜていた。 10:07am 犯人逮捕。
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