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第7回1000字小説バトル
Entry27

正当性

作者 : 君島恒星
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 右足はアクセルを深く踏み込んでいる。
 視界に入るネオンは流れ星のように後方へと流れ去る。
「ちょっと、スピード出しすぎよ!」
 助手席の女が叫んだ。女の瞳は恐怖に慄いてきた。
「怖ければ降りろよ」
 僕は冷たく言った。
「停めてよ! 停めて!」
 乗ったおまえが悪いんだよ。スピードメーターは振り切っていた。
自動制御は突破らってある。壊れるまで走り続けるだろう。
 ハンドルに手を伸ばそうとした女の頬を殴った。
「死たいのか! ハンドルを数センチ動かしただけで横転するぞ!」
 女はシートに身を丸め込んだ。しょんべんをちびるかもしれない。
 夜の高速道路。
 町で声をかけられただけで、知らない男の車に乗り込んでしまう
女。自業自得だ。
 僕はいつ死んでもいいのだから。
 2ヵ月前に彼女とちょっとしたことで喧嘩した。彼女は僕の部屋
から、深夜の街に飛び出していった。とたんに不安になった。探し
に出たが、見つかるわけがない。彼女からの連絡はない。あったの
は警察からだった。ナンパされて乗った車が事故を起こし、大破し
たそうだ。
 死亡・・・
 その言葉が理解できなかった。
 見ず知らずの男の車に乗って死んでしまったのだ。
 深夜、彼女がナンパされたあたりで、彼女に似た女を見つけ、声
をかけた。彼女は小首をかしげて笑った。もちろん知り合いではな
い、見ず知らずの女。
「いい車ね。乗せて!」
 勝手にドアに手をかけた。彼女に似た女に怒りを感じた。高速に
入り女が恐がるまでスピードをあげる。死んでもかまわないという
気持ちが女を恐怖に導いていた。
 あれから週に1回は女を乗せて同じことを繰り返している。恐が
る女はまた元の場所で降ろしてやる。ただそれだけ・・・
 その夜の女はさっきまで身をまるめていたのに、スーと座り直し
僕を静かに見ていた。恐がらないのだ。スピードをだしても、ずっ
と僕の横で僕の横顔を見つめていた。気持ちが悪くなってきた。女
は激しい走行音の中、小さく声を出して言った。聞こえるはずのな
い声が頭のなかに刻まれる。
「楽しいの?」
 彼女の声だった。
「おまえなのか?」
 女はそれ以上話さなかった。
 知っているさ。こんなことしたって何にもならないって・・・別
におまえに会いたかったからでもない。ヤケでもない。ただ回数を
重ねて、ナンパとそれにのる女の正当性を感じたかっただけだ。
 僕はスピードを落とした。






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