第7回1000字小説バトル
Entry32
タカオはつまらない男だったので、女性にはもちろんのこと、同 性にもモテない。つまらないタカオは、つまらない職場で、つまら ない仕事をこなし、家に帰れば、つまらないテレビを観、ベッドで 見る夢すらつまらない毎日に、ほとほとイヤケがさしてしまい、と うとう、デパートの屋上、フェンスの外にあって、地上を見下ろす に至った。 ふと地上からタカオに向かって、白いモヤのようなものが、いき おいよく上昇してくるのが見えた。タカオと同じ高さにくると、そ れはヒトの形をとった。宙に浮いた女のようなものが、言葉を発し た。 「やっぱり。あんた、自殺しようとしてんのね?」 「なんなんだ、きみは」 「つまんない質問しない。見たまんまだし。あたし、去年ここで死 んだのよね。飛び降りて。でもさ、なんか、つまんない死に方し ちゃったな、って後悔中。それにさ」 あっけにとられるタカオにおかまいなく、女のようなものは、し ゃべり続けた。あっけにとられているため、ほとんど聞いていない。 「というわけよ。ね、まいるでしょ?」 「あ、ああ、まいるね」 「つまんない返事ね。つまり、あたしは成仏できないの。死に方に 未練があったから。だから、あんたがおもしろく死ねるように手伝 えば、成仏できそうなわけ」 たしかに投身自殺なんて、よくある方法だった。つまらなく生き てきたのだから、せめて最期は、おもしろしく死のう。とはいえ、 つまらない男なので自信がない。この、女のようなものに手伝って もらうことにした。 屋上のベンチに座って、ハタから見れば、タカオがひとりでウン ウンうなずいているだけに見える。女のようなものは、死んでから のち、他に考えることがなかったのか、ありとあらゆる自殺のアイ ディアを出した。水族館のピラニアに食べられて死ぬ。ケン玉を喉 につまらせて死ぬ。バナナの皮ですべって、打ちどころが悪くて死 ぬ。などなど。 「あんたは、なんかいいアイディアないの?」 「ほとんど出つくしてるけど、そうだな、投身は投身でも、投身自 殺に失敗して死ぬというのはどうだろう」 「思いつかなかったわ。おもしろい発想だけど、それって死ねない し」 かくしてタカオは、生まれてはじめて、おもしろいと評価される 分野を発見した。しかもこれ以来、ちょくちょく女のようなものが 家にやってきて、どう死ぬんだと問いにくるのだから、世の中おも しろいこともあるものだ、と思いながら、タカオは毎日を生きてい る。
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