インディーズバトルマガジン QBOOKS

第7回1000字小説バトル
Entry35

飼育(スケープゴート編)

作者 : ヒモロギ
Website : http://home4.highway.ne.jp/deadsoul/
文字数 : 1000
「最近は何もかも電子メールになっちゃって、ナマの手紙が全然届
かないのよ。このままじゃあ、ウチのテガミヤギちゃんは餓死しち
ゃうわ」
「はあ、テガミヤギですか」
「そう、手紙しか食べない幻のヤギなのよっ。消印が押された手紙
しか食べないのよっ。ヤギが死んだらアンタたち郵政省のせいだか
らねっ。このっ、このっ」
「うわっ、いてて、いててて」
 へんな婆さんが郵便局に怒鳴り込んできて日傘で僕をバシバシ叩
くのは、今日でもう三度目になる。そんなこと、単なる窓口業務の
僕に言ったってしょうがないのに。これじゃあ仕事にならない。

 ヤギに三日とあけず手紙を書け、という局長命令が下った。なん
だそりゃ。

「ヤギさん元気ですか。僕は元気です」
「今日のお昼はコロッケ定食を食べました」
「彼女ができました。ヤギさんに彼女はいますか? ていうかオス
ですか?」
「今日はお年玉つき年賀状で手紙を書きます。4等が当たっている
やつなので、きっとおいしいぞ」

 どうせ相手はヤギなのだから、読まずに食べてしまうにきまって
いるのだ。そんな気楽さから、とりとめのないこと、プライベート
なこと、様々なことを書きつけた。

 アンタの手紙はとてもおいしそうに食べるのよ、そう言って菓子
折を携えた婆さんが局にやって来た。ヤギがどのように僕の手紙を
食べ、いかに喜んでメーと鳴くのか、婆さんはまるで自分のことの
如く子細に、他の職員たちの前で語って聞かせるのだった。なんだ
か、すこし恥ずかしかった。

 婆さんから手紙が届いた。引越しをするという。引越し先の住所
は記されていない。僕は晴れてお払い箱となったというわけだ。新
しい土地の郵便局員が、僕の業務を引き継いでくれることだろう。

 婆さんからメールが届いた。「電子メールにて引き続きお願い致
します」という文と、「emailyagi」という添付ファイル。これは
おかしい。電子メールじゃヤギのエサにならないじゃないか。それ
に、彼女に僕のアドレスを教えた覚えはない。少し気味が悪くなっ
て、添付ファイルは開かず捨てた。

 婆さんのアパートの管理人から手紙が届いた。彼女が亡くなった
という。身よりのない彼女の遺品整理を、他に誰もいないのでどう
しても、ということだった。

 案内された部屋を見まわす。小さい部屋だ。目につくものといえ
ば、新品のノートパソコン、僕の送った手紙の山。ヤギはどこにも
いなかった。第一、アパートではヤギは飼えない。






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