第7回1000字小説バトル
Entry4
ある処に、それは料理にうるさい王様が住んでいた。 彼は自分の王宮に世界中の優れた素材を集め、そして名高い料理人 を雇い、毎日贅沢な料理に舌鼓を打っていた。しかし、王は満足で きず、更に素晴らしい料理を求めてお触れを出した。 『我こそは世界最高の料理人と思う者よ、集え! もしも、王を満足させる事が出来た者には、その両肩に背負い切れ ぬ程の巨大な名誉と天の星々に匹敵するほどの富を与えよう』 国中から集まった料理人の数はおよそ一万人。 会場はお祭り騒ぎになり、作られた料理の数々は場に居合わせた全 ての人の期待と涎を集めることに成功していた。その様子を満足気 に眺めると、王は早速料理人を呼ぶことにした。 「山の至宝、海の秘宝、あまねく全ての大地より取り寄せられし、 一流素材で作られた料理でございますれば、陛下の御心を深く揺さ ぶること間違いなしかと思われます」 最初の料理は一流の素材を惜しみなく使ったものではあったが、 それはいつもの食事と変らなかった。王は少し不満げな顔をすると、 次の料理人を呼んだ。 「ここに揃いしは、奇妙奇天烈にして摩訶不思議な究極の珍品での み作られた料理でございます。恐れ多くも陛下であっても、口にな された物がないと自負しております」 恭しく話す料理人の料理を見て、確かに口にしたものがないと王 は思った。ただ、それらを料理と呼ぶには、あまりにも冒涜的であ り、結局眺めるだけで彼は一切口にはせずに次の料理人を呼んだ。 だが、その次もその次の次も、王を満足させるだけの腕を持つ料理 人はおらず、食べただけ期待が減り、減った分には料理が詰めこま れるだけだった。 「私めが最後でございます。今まで、さぞやご満腹……いや、ご立 腹なご様子なれば、不肖ながら私めの料理にて陛下の期待に応えた いと存じます」 あまり期待していない王の前に出された料理は、おにぎりだけだ った。怒る気力もなく、ただ機械的に料理を口に運ぶ王の目に、驚 きの光が宿った。なんの変哲もないただのおにぎり。しかし、それ は今まで王が体験したことのない新鮮な味がした。 「こ、これは、一体……お主、なにを入れたのだ?」 問われた料理人は微笑を浮かべると一言。 「一さじの愛情でございます」 こうしてその料理人は、その両肩に背負い切れぬ程の巨大な名誉 と天の星々に匹敵する程の富、そして后の椅子を手に入れたのだっ た。
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