第7回1000字小説バトル
Entry7
「由美子おはよう」 由美子はこっちに振り向き、急に顔を青ざめた。 「どうしたの? 恐い顔しないでよ」 「・・・知恵、あんた死ぬよ」 「なに言ってんの?」 「・・・あんた死ぬよ」 由美子の青ざめた顔がとても恐かった。 家に帰り玄関を開けると、肉の腐った匂いが鼻を突いた。台所には、 胸に包丁が刺さったままの母が仰向けに寝そべり、白目を剥いている。 三週間前からずっとこのままの姿だ。 三週間前に出ていった父は私を連れ出そうとしたが、私は手を振り 解き、泣きながら人殺しと怒鳴った。父はそれから帰ってこない。 私は死んでいいる母をまたいだままコップに水を汲んだ。母のもと へ歩み寄るとき、スリッパの下で血液がピチャピチャと音を立てた。 水が汲み終わり振返ろうとしたときに、足がすべって母の体の上に転 んだ。背中が包丁を奥へと押し込み、嫌な感触が背中を襲った。母か ら体を離すと、体の右側に母の血液がこびりついていた。ゆっくり立 ち上がり、流しの横にあった布巾で腕と足についた血を拭いた。母の 血で赤くなった布巾を生ゴミの中に捨てた。 こぼしてしまった水をもう一度汲んで、水の張ったコップを持って 二階へあがる。 ベッドに腰を下ろし、バッグを開け、さっき母の実家のお婆ちゃん の家からくすねてきた睡眠薬を取り出した。 ふたを回していたとき、由美子の青ざめた顔を思い出した。
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