| # | 題名 | 作者 | 文字数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 微笑みの練習 | HCE | 約500 |
| 2 | もう一人の私 | ケイジ | 961 |
| 3 | 生きる術 | 岡嶋一人 | 934 |
| 4 | 究極の料理 | てつや | 976 |
| 5 | TEA待夢 | XXY | 601 |
| 6 | 育成娘¥3800 | 李蒋 | - |
| 7 | あれから三週間 | ひでとし | 約600 |
| 8 | かなぶんぶん | dipsy | 1000 |
| 9 | 西瓜の日 | ヒョン | 1000 |
| 10 | 天国にいるお父さんへ | Yamac | 993 |
| 11 | 風邪薬 | FEN | 999 |
| 12 | 思案の末 | TAKUTO | 1000 |
| 13 | ツアー「KIN-MIRAI」 | 大西圭祐 | - |
| 14 | 大指物 | 太郎 | 632 |
| 15 | 精神科にて | K.TAMURA | 750 |
| 16 | 雪玉彗星 | 邯鄲虫 | 約1000字 |
| 17 | 傘 | 綾部 正斗 | 998 |
| 18 | 誰? | zzz | - |
| 19 | 駅前風景 | こむらなるなり | 599 |
| 20 | 流れ星 | 工藤裕也 | 966 |
| 21 | 悠久堂リング | ヒロト | 998 |
| 22 | 温度 | 根本智也 | 999 |
| 23 | さよならを言いに | 小沢 純 | 982 |
| 24 | 河童 | 越冬こあら | 1000 |
| 25 | 災禍 | 三月 | 1000 |
| 26 | 遠い日 | 川島 圭 | 982 |
| 27 | 正当性 | 君島恒星 | - |
| 28 | common love651 | keii | - |
| 29 | ユージュアルサスペクツ | 狂 | 988 |
| 30 | 太陽の裏側 | pavane | 976 |
| 31 | 困惑 | 鮭二 | 987 |
| 32 | おもしろい死に方 | 紺詠志 | 1000 |
| 33 | ある日、森の中 | 関西ぽりす | 997 |
| 34 | 城 | 海坂他人 | 983 |
| 35 | 飼育(スケープゴート編) | ヒモロギ | 1000 |
| 36 | 鳥類園夕景 ★ | 一之江 | 1000 |
| 37 | コアラの電話 | 夜啼き鳥 | 992 |
| 38 | 子供の遊び | じろう | - |
| 39 | めぐり行く時代 | アベタツヤ | - |
取り合えず『おくそたなへまよらわん』って各行一段だけで喋っ てみてよ。 「促音は?」 うーん、まあよしとしようか。 「濁音は?」 もう使ってるじゃない。勿論OK。長音の母音はどうしようか。 「『お』だったら?」 いや別の母音を使っても良いかについて。しなけりゃしないで良 いんだけど。 「そんなら、無くそ」 じゃそうしようか。あと「わ」と発音する所なら「は」も使って 良いよ。ところで君の性別は? 「女だよ」 ま、そうだよね。それにしても男っぽい喋りだね。 「だったらなんだよ」 そう喧嘩腰にならないで。少しはお淑やかにしようとする気はあ るんだろ? 「まったく無いわ」 そりゃ、参ったなあ。 「屈託無く笑った女なら満足?」 解ってるなら直せばいいじゃない。時には慎ましくいる事も必要 だよ。 「余所なら良く、また余所なら黙ったまま。そんなん変よ。奥まっ た」 言い方をするの、君が苦手なのは解るけどね。 「だったら? 直ったら即、迷わなくなった?」 僕個人では実際に悩みは少なくなったと思うけどね。取り合えず 笑ってみたらどうかな。 「下手よ。笑わなく育ったわ。」 何でもトレーニングだよ。だから恥ずかしがらないで。 「そんな」 良いから、ほら。 「、、、へへ。へへへ」 そう、上手だよ。気分はどう? 「楽よ。良くなったわ」
私は今日もいつもどおりに目が覚めました。時計を見ると7時を回 っています。急いで支度をして出勤しました。同期で入社した他の 5人とも仲が良く、それなりにうまくやっています。しかし、最近 ふと考えるようになってしまいました。私は何のために働いている んだろう。自分のキャリアアップのため?貯金のため?愛する人の ため?どれもあてはまるかもしれません。けれど、小さい頃の私の 夢は違ってました。何か違う。そう考えるようになりました。 そんな私がいま、心から解放される場所といったらインターネット かもしれません。インターネット上の会話はキーボードから打ち込 む文字。だから、簡単に新しい自分を作り出すことができます。仕 事の不安などすっかり忘れられるインターネット上には年齢や職業、 性別までも偽ったもう一人の私がいます11時過ぎ・・テレホの時間 になると私はもう一人の私、ネット上のみに存在する人間、ハンド ルネーム「ケイジ」に生まれ変わります。 私は、簡単ながらホームページを持っています。架空の「ケイジ」 という人物を少しでも具体化しようと思ったからです。写真等は私 の以前交際していた彼の写真を使っています。本来なら許可を得な ければ使えないのですが、許可を得るにも彼はもうこの世にいない ので勝手に使っています。2年前、交際中にこの世から去った彼を 忘れられないのかもしれません。死んだ原因は思い出せません。 ホームページの方はまずまずの盛況です。毎日のように決まって来 てくれる方もいます。ここに来る人たちは、ケイジという人がこの ページを作っているものだと思っています。疑う余地もありません。 ただ、親しくなるうちに「会う」ことになったりすると面倒です。 会ったらバレてしまいます。電話番号の交換の話になりそうなとき も、うまく話をそらしたりするのが大変です。それでも、どうして も無理なときは、ケイジに少し似ている友人に頼んだりもしました。 罪悪感を覚えたこともあります。私のしていることは間違いなので しょうか。私はただ、ネット上の私を生きているだけなのです。 本当の私を知りたいですか?そんなことを聞いてもなんにもならな いでしょう。ここに来る人はケイジとの交流を求めているのだから、 本当の私は無意味な存在。でも、ケイジは私で、私はケイジ。私が いなくなったら・・・このページも終りです。
別に誰も恨んじゃあいないよ。物心付いたときには既に一人ぼっ ちだったしね。生きていく術は何となく覚えたね。この土地じゃあ なくたって、生きては行けると思うよ。特別ここが好きって訳でも ないしね。ただ他の土地に移ったところで、今とたいして変わると は思えないし、それに見ず知らずの所へ行って、また一からやり直 すなんて、面倒以外の何物でもないよ。 ほらいつだったか、隣町から来たってやつがいたじゃないか。な じめないとか言って、またどこかへ行っちゃったらしいけど、一度 動くと、結局動き続けるようになっちゃうのかもね。逃げなのかね。 俺は逃げないね。第一、逃げる必要がないもの。そりゃあ、すべ てにおいて、清廉潔白とは言わないよ。多少は悪いこともしたよ。 でもそれは、生きていくための手段としてやったことだから、俺自 身はそんなに後悔してないし、向こうだって、そういつまでも小さ いことを覚えちゃあいないと思うよ。 いやなやつ? いることはいるよ。そんな誰でも彼でも良いやつ ばかりだなんて、かえって気持ち悪いじゃないか。でもね、近づか なきゃあ良いのよ。要するに。いやだったら顔を合わせないことだ ね。知らん顔しとくの。 ギブアンドテイクだと。冗談じゃあないね。俺はギブアンドギブ だね。そりゃあね、多少は媚びる事もあるさ。生きてくためのテク ニックも必要だもの。何でもかんでも、敵対心むき出しにしてちゃ 自分を苦しめるだけだもの。だからって、べったりっていう気には なれないね。なかにはいるよ。そうやって、ずっとおべっか使って 生きてるやつも。いつも身奇麗にして相手の顔色伺いながら、旨く 取り入ってるやつがさ。俺はいやだね。 負け惜しみに聞こえるって? まさか、やめてくれよ。俺はね、 もうこういう生き方が身体の芯にまで染み込んじまってるからさ。 誰が何と言おうと変えるつもりはないね。 寂しくないかって? 今更考えたくもないね。突っ張ってるわけ じゃないよ。そんなこと考えたってどうにもならないって事だよ。 おっと、話し込んでて大事なカモを見過ごすとこだった。ほら、 今あそこを通ってるやつ、あいつ。気の良いやつでさ。時々世話に なってる訳よ。あいつ、なんか持ってるだろ。 ちょっと、行ってくるわ。 ニャーオー
ある処に、それは料理にうるさい王様が住んでいた。 彼は自分の王宮に世界中の優れた素材を集め、そして名高い料理人 を雇い、毎日贅沢な料理に舌鼓を打っていた。しかし、王は満足で きず、更に素晴らしい料理を求めてお触れを出した。 『我こそは世界最高の料理人と思う者よ、集え! もしも、王を満足させる事が出来た者には、その両肩に背負い切れ ぬ程の巨大な名誉と天の星々に匹敵するほどの富を与えよう』 国中から集まった料理人の数はおよそ一万人。 会場はお祭り騒ぎになり、作られた料理の数々は場に居合わせた全 ての人の期待と涎を集めることに成功していた。その様子を満足気 に眺めると、王は早速料理人を呼ぶことにした。 「山の至宝、海の秘宝、あまねく全ての大地より取り寄せられし、 一流素材で作られた料理でございますれば、陛下の御心を深く揺さ ぶること間違いなしかと思われます」 最初の料理は一流の素材を惜しみなく使ったものではあったが、 それはいつもの食事と変らなかった。王は少し不満げな顔をすると、 次の料理人を呼んだ。 「ここに揃いしは、奇妙奇天烈にして摩訶不思議な究極の珍品での み作られた料理でございます。恐れ多くも陛下であっても、口にな された物がないと自負しております」 恭しく話す料理人の料理を見て、確かに口にしたものがないと王 は思った。ただ、それらを料理と呼ぶには、あまりにも冒涜的であ り、結局眺めるだけで彼は一切口にはせずに次の料理人を呼んだ。 だが、その次もその次の次も、王を満足させるだけの腕を持つ料理 人はおらず、食べただけ期待が減り、減った分には料理が詰めこま れるだけだった。 「私めが最後でございます。今まで、さぞやご満腹……いや、ご立 腹なご様子なれば、不肖ながら私めの料理にて陛下の期待に応えた いと存じます」 あまり期待していない王の前に出された料理は、おにぎりだけだ った。怒る気力もなく、ただ機械的に料理を口に運ぶ王の目に、驚 きの光が宿った。なんの変哲もないただのおにぎり。しかし、それ は今まで王が体験したことのない新鮮な味がした。 「こ、これは、一体……お主、なにを入れたのだ?」 問われた料理人は微笑を浮かべると一言。 「一さじの愛情でございます」 こうしてその料理人は、その両肩に背負い切れぬ程の巨大な名誉 と天の星々に匹敵する程の富、そして后の椅子を手に入れたのだっ た。
それは、泡沫の夢のように、たよりないほどちいさな物語……。 まもなく約束の時間だ。 時計を見てから、いつものように窓際の席に座り、紅茶を注文す る。 眺めの良い、二階の喫茶店。 眼下を流れる人々の姿を、わたしはぼんやりと見つめた。 通りの向こう。 駅の構内から出てくる人。 構内へと消えていく人。 男と、女と、いろいろな、顔。 まだこない、あのひとを想いながら、わたしは紅茶一杯分の時を 過ごす。 テーブルにはティーカップ。 砂糖が二杯の、甘い紅茶。 たゆたう湯気が、初恋のように儚く、霞んでは消えていく。 待つのはキライじゃない。 だけど待たせるのはキライ。不安になるから。 だから、賭けてみる。 紅茶一杯分の時を、 待たせるだけの、わたしの価値を。 いつもの時間、いつもの場所。 湯気の向こう、窓の向こう、通りの向こうに、忙しなく時計を覗 く姿を見つけた。 はやる気持ちを抑えながら、琥珀色の液体を呑みこむ。 早く、行きたい──。 あふれてくる気持ちの奔流。 過ぎるほどに焦がれる想い。 高鳴る鼓動。 紅茶一杯分の幸せに、わたしの体温が上がる。 待つひとがいる喜びを感じながら、わたしは走りだす。 そして、いつものように遅刻するわたしに、微笑むあのひとの胸 へと、両手を広げて飛び込む。 壊れないように、無くさないように、大切な想いを詰め込んで、 ちいさな、ちいさな物語は、今日もどこかで語られている……。
誕生日のプレゼントに娘を飼わせてもらった。3ヶ月という年の 割に身体の大きい沖縄産だった。名前は「カナ」にした。 カナは良く食っては寝ていた。 おかげで1ヶ月のうちに5センチ も身長が伸びて、120センチになった。 カナは品種改良されてい て、最初の1年で思春期にまで行くようにできていた。おまけに飼 い主には従順で、サービスが良かった。友人のTの娘は放って置く とすぐデブになると聞いていたので、少し心配していたが、胃下垂 だから大丈夫みたいだった。 最初の1年で、 僕はかなりカナに惚れ込んだ。これは成功だと思 った。白く透けた肌に長い掌脚、西洋を感じさせる淡い表情。これ なら学校の奴等に見せても十分自慢になると意気揚々としていた。 ところが、 カナが1歳半になって、大人としての魅力を見せはじ めてきたある日、反抗期が始まった。薄汚い焼け肌、ドリフコント 爆発パーマ。お決まりのレスラーメークで口調は語尾に「だすうぇ い〜〜〜ア゛ア゛ッ!」だった。完全にギャルってしまった。と言 うよりはちょっと間違っていた。僕はかなり落ち込んだ。RPGの データがすべて消えたときぐらいに落ち込んだ。小一時間落ち込ん で、仕方がないので、「娘ショップ」へ行って、カナの買い取りを お願いした。すると店長は、 「あのねえ、ギャルならともかくも、こんなギャルだかドリフだか 解らないようなの持ってこられても困るんだよねえ」 と渋い顔をしてみせた。とりあえずギャルとドリフとレスラー混 血だと言ったら、500円くれた。それで、新しい娘を買おうとした が、中古品のババアばかりなので、あきらめた。 2週間ぐらいしてか、隣町でカナを見つけた。学校の先生っぽか った。新しい買い手は、かなりのマニアだと推測できた。来年の正 月にもう一体買って、今度は慎重に育てようと攻略本を求め本屋へ 急いだ。
「由美子おはよう」 由美子はこっちに振り向き、急に顔を青ざめた。 「どうしたの? 恐い顔しないでよ」 「・・・知恵、あんた死ぬよ」 「なに言ってんの?」 「・・・あんた死ぬよ」 由美子の青ざめた顔がとても恐かった。 家に帰り玄関を開けると、肉の腐った匂いが鼻を突いた。台所には、 胸に包丁が刺さったままの母が仰向けに寝そべり、白目を剥いている。 三週間前からずっとこのままの姿だ。 三週間前に出ていった父は私を連れ出そうとしたが、私は手を振り 解き、泣きながら人殺しと怒鳴った。父はそれから帰ってこない。 私は死んでいいる母をまたいだままコップに水を汲んだ。母のもと へ歩み寄るとき、スリッパの下で血液がピチャピチャと音を立てた。 水が汲み終わり振返ろうとしたときに、足がすべって母の体の上に転 んだ。背中が包丁を奥へと押し込み、嫌な感触が背中を襲った。母か ら体を離すと、体の右側に母の血液がこびりついていた。ゆっくり立 ち上がり、流しの横にあった布巾で腕と足についた血を拭いた。母の 血で赤くなった布巾を生ゴミの中に捨てた。 こぼしてしまった水をもう一度汲んで、水の張ったコップを持って 二階へあがる。 ベッドに腰を下ろし、バッグを開け、さっき母の実家のお婆ちゃん の家からくすねてきた睡眠薬を取り出した。 ふたを回していたとき、由美子の青ざめた顔を思い出した。
「よしくーん。こっちの木を見てごらんよ!カブトムシのメスがい るよ!早くおいでったら」 啓太君に呼ばれて良夫君は、眠い目を擦りながら、その木の側へと ぼりとぼりと近づいて行きました。そして啓太君の指差す昆虫を見 て、飽きれるようにこう言いました。 「啓太君。これはカブトムシのメスじゃないよ。コガネムシ科の昆 虫でかなぶんって言うんだよ。大きさが全然違うでしょう? そん な事も知らないの?」 すると啓太君は、すごく申し分けなさそうに、こう言いました。 「ごめん…。じゃあこれは捕まえないで良いかな?」 「ああ、いいよ逃がして上げなよ…。」 「ああ、君はあの時のかなぶんか。」 「そうです。思い出して頂けましたか? 私が人間にそのように呼 ばれているとは、もちろん知りませんでしたが、私があの時のかな ぶん。またの名をかなぶんぶんと申します。」 夏休みの宿題を、いっぱいに広げてある良夫君の勉強机の上には、 自称コガネムシ科のかなぶんぶんが朝の恩返しに遣ってきていたの でした。 「うん。一応思い出したけどさ、恩返しなんてしなくて良いよ。そ れよりも僕は、宿題がやりたいんだけど。」 良夫君の返事に驚いたのか、ぶんぶんは頭からニョッキっと飛び出 た、体よりも長い触覚を小刻みに動かしました。 「これはなんて謙虚な方なんでしょう。私はますますあなたの事が 気に入りました。そんな事言わずに、恩返しとして、願いを一つだ け叶えさせて下さい。」 「そんなのいいってば、あの時の会話を聞いてたでしょう?別に助 けて上げようと思ったんじゃなくてさ、カブトムシじゃなかったか ら、いらなかっただけなんだよ。まあ僕はカブトムシにも興味はな いんだけどさ。」 するとぶんぶんは、嬉しさのあまり真っ黒に輝くぬめぬめとした体 で、真っ白なノートの上をかなぶんとは思えない速さで走り回りま した。 「なんということでしょう!カブトムシにも興味が無いなんて、な んて素晴らしい心の持ち主でしょう。あなたは全昆虫の味方です。 ぜひとも願いを叶えさせて下さい。この私に!このコガネムシ科の かなぶんぶんに!」 それを聞いた良夫君は、自称かなぶんぶんにこう言いました。 「あのさ。朝見た時は、まだ暗くてよく見えなくて、君の事をかな ぶんなんて呼んじゃったけどさ、蛍光燈の下で見る君はかなぶんじ ゃないよ。」 「え!私がかなぶんではない?では私は一体何者なんでしょう?」 「君は皆の嫌われ者。ごきぶりだよ」 「ドキィ!」
妻が子供を産んだ。西瓜の子であった。 生まれた西瓜を持ち帰ってはみたものの、どうすればよいのか私 にはわからなかった。 「近所の保育園で育児相談所をやっているらしいから、そこへ行っ てみてはどうかしら」 と妻が言うので、ではそうしてみるかと、二人で出かけた。 途中、八百屋の前を通りがかると、そこの奥さんが声をかけてき た。 「あら、若竹さん、お出かけですか?」 「ええ、ちょっと。今日、ご主人は?」 「ああ、あれは怠け者ですから。仕事の途中で抜け出しては、いつ もどこかを遊び歩いているんですよ」 「そうですか」 そう言って保育園に向かおうとしたのだが、妻はついてこなかっ た。夢見る目をして、店先の野菜や果物に見入っていた。 「おい、行くぞ」 妻の手をひき、私はふたたび歩きはじめた。 出産を終えてから後、妻はどことなく様子が変だった。人間の代 わりに西瓜が生まれたのだから、まあそれも当然なのだが、私にし てみれば、やはり心配であった。 八百屋の奥さんになるのが夢だったの、といつだったか、妻が私 に話したことがある。子供の頃だけどね。八百屋の奥さんになれば、 毎日がどんなに楽しいかしらって、そう思ってた。 そう話す妻は、ふだんよりも、どこか幸せそうだった。しかし妻 がどうしてそういう話をするのか、私には理由がわからなかった。 保育園に着き、育児相談に来たという旨をつたえると、しばらく 待たされ、やがてそれほど広くない一室へと通された。入ってきた のは八百屋の主人であった。 「どうもどうも。今日はどのようなご相談で?」 私は驚いた。「どうゆう相談っていっても。あなた、八百屋の主 人でしょ?」 「ええ、そうですよ。ですから、八百屋と兼ねて、こうして育児相 談もやっているんです」 「そうだったんですか」 私は妻の顔をみた。妻は、またうっとりとしていた。 「じつは」と私は言った。「西瓜の子が生まれたのです」 「すばらしい!」と八百屋は言った。「いいじゃないですか、西瓜 の子。西瓜はおいしいですからね。じつにうらやましい。いやあ、 私もほしいですよ、西瓜の子」 ばかばかしい、と私は思った。 「おい、帰るぞ」 「あら、若竹さん」顔を赤らめ、妻は八百屋の手を握った。「お買 い物ですか? 今日は人参がお安いですよ」 どうかしている、と私は思った。何もかも、どうかしているのだ。 妻を残して私は一人家へと帰った。その日、私は西瓜を食べるこ とにした。
天国のお父さん、お元気ですか?あの飛行機事故からもう1年に なります。今日はなぜか、お父さんのことばかり思い出してしまい ます。お父さんを亡くしてから、私とお母さんにはつらいことばか り。でもそれは当然のことかもしれません。 私は悪い娘でした。お父さんの愛情に気付かず、いつも逆らって ばかりいました。グレて学校は退学になり、煙草や酒どころかシン ナーまで覚え、挙げ句の果てに、誰のものとも分からない子供を中 絶までして...。 本当に私が愚かでした。もう少し早くお父さんの愛に気づいてい れば、こんなことにはならなかったのに。せめてもう一度お父さん に会って、ひとこと謝りたいのです。でも、それは2度とかなわぬ ことなのですね。 お父さんは、こんな娘のことを思い出したくないかもしれません。 でも、お願いです。どうか私のことを忘れないでくださいね。 天国にいるあなた、お元気ですか?あの事故から1年がたちまし た。墜落していく飛行機の中で、自分のシートベルトを締めもせず、 私と娘をかばって力一杯抱きしめていてくれましたね。あのとき、 あなたの腕の中で、このまま死んでもずっと3人一緒だと思ってい ました。なのに、あなただけが天国に召されてしまうなんて・・。 でも、それも仕方のないことかもしれません。あなたにとって私 はろくでもない妻だったことでしょう。毎日疲れて帰ってくるあな たにねぎらいの言葉をかけるどころか、やれ稼ぎが少ないだの、出 世が遅くて体裁が悪いだのと文句をいうばかり。あなたの唯一の楽 しみだった、一杯の晩酌に対してさえけちをつけていました。今思 い出しても恥ずかしくてなりません。 女友達との旅行と偽って、昔の恋人と温泉に行ったこともありま した。あなたはうすうす気づいていたのにじっと耐えていてくれま した。あのときは、それがあなたのやさしさとも気づかず、内心で は、意気地のない男、などと思っていました。 なんというふしだらで、どうしようもない女だったのでしょう。 あなたを失って、ようやく自分の愚かさに気づきました。でも、ど うかこれだけは信じて欲しいのです。 ...愛しています、今でも...。 「おい!いつまでぼーっとしている。さっさと歩け!この亡者ども め!」 血の池地獄からようやく這い出し、わずかばかりの休息を取って いた母親と娘は、今度は灼熱地獄へと追い立てられていった。
「やったぞ。遂に完成じゃ」 「博士、何が完成されたのですか?」 「うむ。この世の中に風邪薬は数あれど、すべて咳や鼻水、頭痛、 発熱といった症状のみに対して有効な物ばかりじゃ。しかし、今回 わしが発明した風邪薬は、風邪の根源であるウイルスに直接作用す るという画期的な薬なのじゃ」 「おお!それはすごい!本当におめで……あ」 「どうしたのかね」 「博士、もしかしてその薬には致命的な欠陥があったりしませんか」 「むむ、するどいな。さすが長年わしの助手をしておるだけのこと はある。そうなのじゃ。ちょっと問題がのお」 「やはり……だいたいこんな話の時はそんなオチが待ってるもので す」 「そうなのか?」 「そうです。私も伊達に多くの小説を読んでませんよ」 「何やらよく分からんが、そんなものなのか」 「では私の経験でその問題点を当ててみましょう」 「ほう」 「薬がものすごく大きいとか、かなりの量を服用しなければいけな いとか?」 「いや、それはない。大きさは見ての通り普通の錠剤と変わらんし、 服用も1回2錠でOKじゃ」 「では、治るまでに時間がかかるとか」 「それもない。まあ体に吸収されるまでの時間はあるじゃろうが、 通常の薬よりは早いはずじゃ」 「死ぬほどまずくて、とても服用出来るものじゃないんだ」 「味までは考えておらんかったが、そんなにまずいものでもないと 思うぞ」 「風邪が治る代わりに別の病気にかかってしまうってのは」 「この薬は風邪のウイルスにだけ効力があるのじゃ。それに助手よ、 そんなもんは薬ではないぞ」 「じゃあ副作用はないと?」 「全くない」 「逆に風邪ではない時に飲むとまずいとか……」 「身体には無害な物質で作っておるから、それも問題ない」 「コストの関係で値段がものすごく高いのでは」 「今は少々高めじゃが、大量生産出来るようになればその心配もな いじゃろう」 「まさか、実験用のハムスターには効いたけど人には効かないなん て……」 「いくら何でもそれは失礼じゃないかね?人間の風邪を直さんで何 の意味があるのじゃ!」 「すいません。では、一体問題点とは何なんですか?」 「うむ、この薬はちょいと溶解性が弱いんじゃ」 「まさか、大量に水を飲まなきゃいけないんですか」 「水で服用するとなると20リットルは欲しいのぉ」 「そんなに水は飲めませんよ!」 「先に水で溶かして飲むのはどうじゃろうか」 「それなら何とかなりそうですね」 「但し、20リットルの薬になるがの」
早目に仕事から帰ると、毎年恒例の同窓会の開催通知が来ていた。 都会で生活を始めた俺には、高校の頃の仲間とは疎遠になってい た。忙しさを理由に、何年も同窓会に出席していない。みんな変わ ったろうか。 アルバムを探していると、電話が鳴った。 同窓会幹事の佐藤からだった。こっちに来ているから会おうとい う。懐かしさから呼出しに応じた。 「おぉーっ。生きてたか佐藤」 「おう。幽霊じゃねぇだろうな、鈴木」 互いに薄くなった頭を、笑って叩き、酒を酌み交わし昔話に興じ ていた。 「佐藤さん。こんな所にいたんですか?」 愉快な酒の席に、仕立てのいいスーツにサングラスの男が割り込 んできた。 突然佐藤の顔色が変わった。 「おっと。お客さんに迷惑ですから、お静かに」 なんか、やばそうだ。 「知ってる人なのか?」 「…ちょっとな」 「こちらの方は?」 「…」 「佐藤の友人です」 「あぁ。それじゃ、こちらの方にお願いしたらどうですか?」 「…」 「実はですね。佐藤さんには…」 「止めてくれ。こいつには関係ない」 「…ですが利子だけでも入れて頂かないと、こちらも困るんですよ」 「…借金取りか?」 「いや。鈴木には関係ない。忘れてくれ」 「いったい幾らなんだ?」 「忘れてくれ…」 「少し位なら貸せるぜ」 一戸建ての頭金にと貯めている金額を思い浮かべていると、佐藤 は頭を寄せてきた。 「100万でいい。必ず返す。頼む」 佐藤はその場で土下座した。 「ちょっと待てよ。そんな事するなよ」 俺はちょっと大きな金額にうろたえながらも、酒の勢いで胸を叩 いていた。 その日はさすがに銀行も閉まっているので、翌日の昼に新宿駅で 待ち合わせをして金を渡すと、佐藤は紙切れを俺の手にねじ込み、 挨拶もそこそこに消えた。 紙には電話番号とメモがあった。 『一周間以内に電話をくれ。但し電話する日を事前に俺が知った時 は、すまんが金は諦めてくれ』 一週間以内で知ってはならないという事は、6日間請求しないと 7日目になるから、7日目はありえない。6日目に請求すると、7 日目に請求できない以上6日目になるから、だめだ。5日目に請求 すると…。えっ。絶対請求できないという事じゃないか。 同窓会の会場へ行くと、みんなの笑い声が俺を迎えた。 「やっぱりパラドックスの事を忘れていたな」 佐藤と篠原という借金取りに化けたすっかり変わった級友が、学 生時代に矛盾のある命題の説明を受けた事を思い出させていた。
ここは近未来の日本。おや??あんなところに未来の大ヒットディ スク「君の明日」を見ている少年がいます。 「君の明日」とはディスクの表面に自分の指紋をつけるだけでその 人の人生が見えるという画期的な商品です。 それでは少しその少年を覗いてみましょうか。 「!!!!!!!!」 ひゃくてんだ。 『ふじもとくん、よくやったわね。』 せんせいがボクのことをほめてる。 『すごいなあ。ひゃくてん??』 みんながボクのほうをみている。 ひゃくてんをとるってすごいことなんだなあ。 「これがいまのボクだ。はやおくり。」 ピッ。 「さいせい。」 ピッ。 『あんたも受験生なんだから少しは勉強しなさい。』 うるさい親だ。 「わかったよ。今するから。」 ったく、そんなに受験、受験言うんならお前が受験しろよ。 「これがちゅうがくせいのボクか…。よし。はやおくり。」 ピッ。 「さいせい。」 『藤本!お前、◯×産業の丸友さんに挨拶行ってこい!!』 「はい!」 はあ、下っ端って大変だな。 …嫁さんほしいなあ…。 「トイレでもよるか…。」 あーあ、こんなにいい男が町中歩いているのに誰も振り向きもしな い。嫌な世の中になって…。 「…ていし。」 ボクにはそのディスクをそれ以上進める勇気なんてなかった。 だってあの後、未来のボクは便器に座って猫背になって右手でソー セージみたいなものを上下に懸命に動かしていたから何かの病気に なっているのかなと思って…。 すごく怖かったから、お母さんに「この人何やってるの??」って 聞いたら『こんなものどこから拾ってきたの!!!』って怒るんだ。 大ヒット商品だって言うし、友達のみんなも面白いっていうからお 母さんに買ってもらったのに…。 だからボクは苦情の手紙をこのディスクを作った会社に送りつけた んだ。 「このディスクのせいでボクはおかあさんにおこられました。この ディスクをみてからしばらくおかあさんはくちもきいてくれません でした。 ボクはびょうきなんですか?このディスクをみてからボクのせいし んじょうたいはふあんていになっています。せきにんをとってくだ さい。 ふじもとまさる。」 あーあ。すっきりした。 これで日本も少しは変わるかもね。 よかったね。藤本君。 ツアー「KIN-MIRAI」まだまだ始まったばかりです。これぐらいで 驚いてちゃいけません。続いて近未来のオトナ達…。
徳川頼宣は家康の第十男、紀伊徳川の祖である。 大阪合戦の頃は駿河五十万石の大名であった。その分限に応じて兵 を出し、夏の陣では一万を率いて殿軍に属している。 その旗下に矢部虎之助という男があった。 まだ剃りの青い虎之助は「咲く頃は花の数にも足らざれど散るに は洩れぬ矢部虎之助」と大書した長さ二間の大位牌を指物とした。 竹の張り子などではない、大人三人ほどが背中に覆い被さるような 重みがあった。 「功名も大事だが目立つのも肝心、大将の目に留まらねば出世もな い」 なるほど駿河宰相頼宣にはひときわ喜ばれた。何といっても宰相 頼宣は物事が嬉しい御歳十四である。「あれは誰じゃ」と、やや高 い口調で御下問あり、歳古びた家老が「矢部虎之助とありますな」 と苦い声でこれに答えた。 「俺が名前は若君の御耳に達したぞ!」 虎之助の喜びようはただごとではない。 そびえる壁のような指物を背負った虎之助を周囲は邪魔に思った が、若君のお声が掛かった今となっては小言も云えぬ。 このまま何事もなければ、あるいは多少の取り立てはあったかも しれない。ところが「いざ出陣」のその日、大号令と共に進み始め た虎之助、大位牌に強い風が吹いて、ころりと馬から落ちてしまっ た。 ぽきりと位牌も折れた。「やっ!」と一瞬周りは息を呑んだが、突 然弾けるような笑いが起き、波のように広がって、あろうことか駿 河軍勢が一時隘路に滞った。 「なるほど、散るには洩れぬ虎之助じゃ!」 後、矢部虎之助は食を断って死んだ。
『157匹のナメクジが洋服をとかし胸に舌を這わせようとしてる』 それが私が受けた恐怖のイメージ。 「この歳になっても男が怖い、だけどこの歳になってもまだという のはつらい」 女医は「あなたの歳でそんな人珍しくないわよ」と微笑んでみせ た。クソッ、お前のまわりに第三者が知ったら目をむくような体験 をした女がいるのかよ。 「理想が高いからなんていう、お花畑の少女みたいな理由じゃない。 私のなかであの日の恐怖がとぐろ巻いているって何度も言ってる」 アイツの視点の定まらない落ちくぼんだ目。痩せた親指が唇をな ぞった。刃物を捜す手は虚をつかんで。誰か声の出し方を教えてよ。 あのときベルが鳴らなかったら私は。 「私のような理由の人はそうはいないでしょう」 女医は震えが止まらない経験をしたこともないのに「そうね」と 微笑んでいらっしゃる。クソッ、涙の固まりが胃袋と一緒に出てき そうだ。 「この歳でセックスが語れない自分が馬鹿みたいでどこにも行けな い。どうすれば普通の女になれるんですか」 女医は「あなたは未遂で済んだのだから、誰とでもやれないこと ないでしょう」とヒザの上で重ねられた薬指のリング。 なんのために精神科なんかに来たんだろう。全然ダメじゃん。こ の役立たずに本棚のこけし突っ込んでやろうか。
「おじさん、大変だよ!」 眠ったはずの甥が、突然ドアを開けるなり叫んだ。振り向いた私 はその真剣で蒼白な顔つきに只事ではないと直感した。真夜中であ る。今夜は集中豪雨でこの付近一帯も停電となり、先刻から私は蝋 燭の光の中、締め切り迫った作品の為に、アイデアの絞り出しと胃 の絞られるような痛みに苦しんでいた。こんな状態がもう二週間も 続いている。おまけにこの夏は姉夫婦の都合で小学生の甥の面倒を むりやり引き受けさせられていた。 「大変だよ! 今ラジオで言ってた、もうすぐ雪玉彗星が落ちてくる って!」 突然の話に唖然としていると、甥は信じられないという目で言っ た。 「おじさんが教えてくれたんじゃないか! 地球の水の起源は宇宙か らの雪玉彗星だってこと。46億年も昔からずっと…今も一日に何 千個も地球に落ちてきてるって……」 そこまで聞いて私はハッと思い当たった。「え? だってそれは… …」 「そうだよ! 今までは地球圏に突入しても太陽の熱で水蒸気になっ てたけど、今度のは溶けないで落ちてくるんだって!」 「そんな!」と私は思わず叫んだ。慌てて棚の上のラジオに目をや ったが、それはとうに電池が切れていた。 「だけど…そんなバカな…なぜ蒸発もしないで…おい!彗星は一個 がこの家くらいあるんだよ!…何十トンもの水の塊…一日に何千個 も落ちてくる…そうだ! ラジオを持っといで!」 「ボクのラジオも途中で切れた。電池が無いみたい……」不安げに 私を見つめながら甥はヘタヘタとその場に座り込んだ。 微かに揺れる蝋燭の灯が大小二つの影をぼんやりと壁に映してい る。雨戸を通して激しい雨の音がことさら耳につく。 「大丈夫だ、心配しなくていい。おじさんがいるからな」とは言っ てみたが、このとてつもない天変地異から甥を護る自信などある訳 がない。たとえ雨のような状態でも、巨大な雪玉の落下が何日も続 いたとしたらこの地球上に洪水から逃れられる場所などあるだろう か。 私は甥がラジオで聞いた数少ない情報から考えられる限りの対策 を口にしては自ら(或いは甥の生意気だが当を得た反論から)否定 するという繰り返しだった。かれこれ4時間は経っていた。もう明 け方である。 突然部屋が明るくなった。同時に、スイッチを入れたままにして あったテレビから気象図の静止画面とともに静かな音楽が流れ出し た。それを横目で見ながら甥は大きく伸びをすると、大口をあけて 欠伸をした。 「おじさん、まだ胃が痛い?」 「え? いや……」 「よかったね。じゃあボク、もう寝るよ。あれは冗談だから安心し て。おじさん、たまには仕事のことも忘れないとね」
いつもの帰り道、私は、雨に降られた。 「傘、持ってこなかったからな」 恨めしげに、空に呟いてみるが、雨の方は、止む気配すら見せず、 勢いを更に強めた。 雨宿りをしている私に、「傘……持ってないんですか?」 声のしたほうを見ると、くたびれた感じの女性が、居た。 「ええ。今朝の天気予報をあてにしてしまって」 「よかったら、使ってください」 女性は、二本あるうちの一本の傘――青い傘を私に手渡した。 「いや、見ず知らずの人に……悪いですよ」 止みそうも無い雨の事を考えると、非常に魅力的な申し出ではあ ったが、私は、やんわりと断った。 「使ってください」 そう言うと、傘を置いて、雨の中へと消えて行った。「何だった んだ?」 奇妙な感じにとらわれながらも、私は、傘を手に取った。 青い、綺麗な傘だった。 一週間が過ぎても私の手元には、青い傘が残っていた。あれから、 雨は一度も降らなかった。 「今日こそは」 祈るような気持ちで、空を見上げる。が、祈りもむなしい。降り そうにない天気だ。 しかし雨の女神は、私を見捨てなかった。 昼から、バケツをひっくり返したような大雨となった。なんとな く会えそうな気がする。 予感は当たるもので、前に会ったときと同じ服装の彼女が居た。 私は、傘を返そうと駆け寄った。その足を陰口が止める。 「また、居るわよ。あの奥さん」 「かわいそうに……頭が、おかしくなったのかも……」 私は、二人に、「どうかしたんですか?あの奥さん」 最初は、いぶかしんで見ていたが、噂好きの典型らしい二人は、 話してくれた。 「あの、奥さん。今でも旦那の事を待っているんですよ」 「それが、変ですか?」 「そりゃ、変よ。旦那は、事故で亡くなってるんだから」 私は、ギョッとした。まるで、忠犬ハチ公じゃ、ないか! 「雨の日に、傘が無いご主人が、走って信号を渡ろうとしたのよ。 濡れたくなかったみたいで、赤信号を。それで、轢かれたらしいわ」 「誰か、あの奥さんに言ってあげないんですか?」 「無理よ。皆、厄介事に首を突っ込みたくないのよ」 「そうよ」 と、二人は言う。瞬間、ムッとしたが、怒りの感情もすぐに消え た。 私もこの二人の主婦と一緒なのだ。 二人に、お辞儀をすると私は、帰ることにした。手には、青い傘 があった。 家に戻ると、私は、ギンギンに冷やしてあったビールを空けた。 いつもなら、心地よく酔いが、五臓六腑に染み渡るのだが、今日は、 勝手が違う。 生れてこのかた、私は、普通の人間よりも敏感に他人を遠ざけて きた。 幸か不幸か、私には、現在親友と呼べる存在も恋人と呼べる存在 も居ない。 ともかく、私は、この年にして自分の過去を悔やんでいた。 何故、自分の殻を壊さなかったのだろう。しかし、悔いていても 始まらない。今、持っている青い傘。 これが、自分を変えてくれる気がした。
3ヵ月程前から急に太く歪になりだした右腕が、今僕にこう尋ね ました。 「君、誰?」 そんな所にあるはずも無い口が一滴の血もこぼさずに半開きのまま です。相手も唖然としている様子ですが、僕はもっと・・・言葉に なりません。 「君、何? どういう事?」 そいつは少し口を歪めると、 「だから・・君、誰? 頭? 目? 耳? それとも眉毛?」 「僕は・・僕だけど・・」 僕がそう答えると、そいつは口をへの字にしてしまいました。 そう、僕って誰? 頭でもないし胴でもないし、ましてや手や足 でもありません。身体全体? いやいや違います。脳ですか? 否、 心? 脳と心ってどう違うのですか? 多分人に同じ質問されても ただ「さぁー、何だろうね。」と答えるだけでしょうけれど、自分 の身体の一部にそんな事聞かれると・・何か自分自身の身体が自分 の物でない様な気がしてきて・・うーん。 「君、知らないの?」 知らないの?と言われても、その右腕は僕の物だと思っていました し、まさか僕がこの身体の一部分だけとも思えませんし。でもパッ と閃きました。 「大体君のその口は君自身の物なの?」 右腕の筋肉がピッと張ると 「そんな事考えた事も無かった」 そいつは驚いた様に言いました。そして暫くの間お互いに悩みまし た。僕達って一体何者なのでしょうか? カッカカッカと照りつける太陽の下、うっすらと汗をかき始めた そいつは言いました。 「君の右腕は君の物じゃないし、僕のこの口も僕の物じゃないと思 う。そうすると自分の物と思っていた他の残りの部分も実は自分の 物ではないかも知れない。そう?」 「うん」 「つまり・・僕達は僕達であって他の何でもない。君が最初に言っ た通りだよ」 ふむ。僕が最初になんとなく言ったあの通りですか。するとそれを 遮る様に僕の身体の何処からか叫び声が聞こえました。 「おいおいおい! いい加減暑いんだから日影でも入ろうや」 僕はビックリして尋ねました。 「今の、誰?」 その声の主は言いました。 「さぁ、俺が誰なんてぇのは俺も知らねぇけどよ、周りからは ”気 が短けぇ” だの ”涙脆い” だの言われてるぜ」 それを聞いた僕と右腕のそいつは暫く向き合った後、大声を出して 笑いました。
何の変哲もない私鉄の駅。商店街方面の出口を出てすぐ右手にあ る立ち食いそば屋。店の入り口のガラスには、自分の店が紹介され ている数年前の地元のタウン誌の切り抜きが無造作なセロテープさ ばきで貼られている。完全に黄ばみきっているその切り抜きは、い つつぶれるとも分からないうらぶれたそば屋の、たったひとつ残さ れたアイデンティティーなのかもしれない。 「お願いしまーす! お願いしまーす!」 募金箱を持った子供達が天使のような声を振り絞り、駅から吐き 出されるサラリーマンや学生達に募金を促している。良く見るとそ の子供達の着ている服や手に握りしめた羽根は、腐りかけの洋辛子 のような、なんともえげつない黄色をしていた。俺はその色を見た 瞬間、それが日々俺達の耳腔内から分泌し続けているミミクソの色 であることに気がついた。 俺は感動した。彼ら彼女らは、日頃人間達からうっとうしがられ 掻き出され続けているミミクソ達に、少しでも人権を与えてあげよ うと、ああして声を枯らしているのだ。ティッシュにくるまれ、燃 えるゴミとして処分されるミミクソに、確固たる市民権を与えよう と、ああして駅前に立ち続けるのだ。それに気がついた俺は、思わ ず賞賛の涙を流さずにはいられなかった。 俺は例の立ち食いそば屋に入り、夕食をとることにした。しかし 頼んだたぬきそばに浮かんだ揚げ玉が、なんとなく大量のミミクソ に見えてしまい、ほとんど残して帰った。
5歳になったばかりの息子が、夕食の支度をする私のもとにやっ てきた。「どうしたの?」と私が尋ねると、息子は真面目な顔つき で私に聞いてきた。 「お母さん、まあ君はどうして生まれたの?」 「まあ君」とはこの息子雅彦のあだ名である。彼は少し旦那に似 たせいか頭の回転が弱く、いくら私が名前を教えても自分のことを 「まあ君」としか言わなかった。それはさておき、誰の入れ知恵か は知らないが息子が自分の出生の事を聞いてきた事に、私はしばし 頭を痛めた。 まさか下の毛も生え揃わぬ子供に「情事の後の懐妊」という事を 詳しく話したところで、彼には何一つ理解できないだろう。 結局私は大人の苦味と渋味の部分を上手く抜き取り、 「まあ君はお母さんとお父さんが愛し合って生まれたのよ」 とだけ言って息子を納得させた。 そんな事もとうに記憶の彼方に飛んでしまっていたその日の晩、 いつもよりも遅く旦那が帰ってきた。旦那は泥酔していてかなり酒 臭いはずだったが、まだ寝ずに起きていた息子は玄関まで出迎え、 旦那に抱き着いた。旦那は上機嫌で、息子の顔をつねったり頭を撫 でたりしながら笑っていた。すると息子は突然、へべれけの旦那に 向かってこう言いだした。 「お父さん、あのね、まあ君はね、お母さんとお父さんが愛し合 って生まれたんだよ」 それを聞いた旦那はそれまでのご陽気ぶりが嘘のように暗く沈み こむと、うつむいて一言つぶやいた。 「愛なんか、無かった」 私は自分の中から血の気が一気に引いてゆくのが分かった。旦那 はまだ言い足りなかったのか、さらに言葉を足し加えた。 「淋しかったんだよ、俺。子供ができたって聞いた時は、そりゃ 驚いたさ。それでさ、何回も聞いたんだよ。本当に俺の子かって。 そしたらそうだって言うんだよ。それで俺、泣いて頼んだんだよ。 堕ろしてくれって」 堕ろしてくれ?私の再び昇りかけた血がそこで一端停まった。旦 那は私に子供ができた時にそんな事は一言も云わなかった。それで は旦那が話している事は一体…。 恐怖を感じた私は手に持っていた肩叩きの棒で旦那を黙らせると、 彼を息子と一緒に寝かしつけた。 息子の寝室から流れ星が見えた。私は心の中で三つの願いを唱え た。一つは旦那の話が冗談であってほしい事、二つ目は息子が今の 話を全て忘れてしまう事、そしてもう一つは、息子に旦那の血が流 れていない事。三つめの願いには少しは可能性があった。
「受け取れないって……冗談だろ」 ゼロ彦の太い指では投げ返された給料三ヶ月分をうまく掴めない。 ベッドの上で跳躍する、濃緑色の給料三ヶ月分。窓から射し込む強 い西日が零子の茶色い瞳を金色に見せていた。 「だからさ、これ、悠久堂の指輪だよ?」 「違うの、首輪」 「え?」 「ユビワじゃなくて、ク・ビ・ワ。まるっきりアンタの聞き違いよ。 バァカ」 「それってネックレスとかチョーカーのことかな」 「首輪ったら首輪。同じことなんべん言わせんのよ、この甲斐性ゼ ロ彦」 投げつけられた枕に背中を押されてゼロ彦は部屋を出た。零子に 罵られるのは快感ではない。習慣だった。安月給で悪かったな、で もまるっきり平気ってわけでもないんだぜと肩をすぼめて歩いてい るうちゼロ彦は、今日も今日とて悠久堂の、蔦の絡まる古びた扉を ぎぎぎいっと押し開ける。こんなしょぼくれた骨董屋のどこがいい のかな零子は。 「……いらっしゃいませ」 「うわっ。店主、脅かさないでよ」 暗がりからぬっと現れた悠久堂店主の顔が、昔お化け屋敷で見た 年老いたドラキュラによく似ており、ゼロ彦のノミの心臓は危うく 口から飛び出すところだった。まんざら知らぬ仲じゃない。が、何 度会っても慣れない顔だ。 「あのう、クビワって、あるかな?」 ゼロ彦のとぼけた問いにふふふと薄く笑い、まあ奥へどうぞと誘 うドラキュラ。壁に並ぶ蝋燭の炎が濃密なムスクの香りを攪拌して いる。奥といっても十歩も歩けばもう店の奥にぶち当たるのだから たいした奥行きではない。ショーケースの向こうでドラキュラの店 主に似た若い女が額縁の中から笑いかけてくる。遠い未来を覗きこ むような悲しい瞳。あの瞳にアレキサンドライトが埋め込まれてる って噂は本当なのかなあとゼロ彦はぼんやり考える。 「それにしても今度はクビワ、でございますか。ええと初めがデン ワで次が……」 「シメナワ。正月だったからね。で、ドライフラワー、ハニワ、ユ ビワ」 「ユビワで決まりかと思ったのですが」といわくありげににやつく ドラキュラ。「返品なさいますか?いつものように」 「いや、やめとくよ」とゼロ彦は即答し、今は赤紫色に揺らぐ石を 見つめる。こいつは切り札なのだから。勝気な零子が連想ゲームに ギブアップするその時のための。……とりあえず待ってみようかな。 ウチワくらいまで。 悠久の美という名の肖像画。額縁の中で片目の女も微笑んでいた。
べっとりと体中に貼りついた寝汗のせいで、私の目覚めはかなり 悪かった。どうやら寝ている間に部屋の温度が上がっていたようだ。 まとわりつく気だるさを振り払うように起き上がり、空気を入れ替 えようと窓を開けた。途端に冷たい、新しい空気が部屋の中へ入り 込んでくる。先程まで居座っていた生暖かい空気は天井のほうへ上 っていったのだろう。暖かい空気は軽いと、確か中学校の理科で習 った。 そう、まるで焚いたばかりの風呂の水のように、上は熱く、下の 方は冷たいままだ。風呂に入る時には水をよくかき混ぜなくてはい けない。おばあちゃんがいつもそう言っていた。小学校の頃、冬の 窓際の席はかなり寒かった。先生に聞くと、空気が動いているから だと教えてくれた。あれもきっと同じことなのだろう。 そういえば小学校の理科の実験で、仲の良かった女の子が割れた ガラスの破片で手を切って酷い怪我をしたことがあった。女の子が 試験管にいきなり熱いお湯を入れたことが原因だった。その時、パ リンという試験管の割れた大きな音は、違う班にいた僕にもよく聞 こえた。その時はただ女の子の泣き声と彼女の掌から流れてくる真 っ赤な血の色だけが頭に入り、どうしてそうなったのかは全然分か らなかった。今ならなぜだか分かる。ガラスは熱伝導が悪く、膨張 率が高いから、お湯に触れた内部だけ膨張して、その力で試験管が 割れたのだ。一月前の物理で習ったばかりだ。 体の中に新しい冷たい空気を取りこむ。僕に寝汗をかかせた生暖 かい空気はすでに部屋の中には存在しない。新しい空気が外へ追い 出してしまった。……確か対流と言うのだったか。固体の時は伝導。 今までとは違うエネルギーを持ったものは、そうやってエネルギー を伝えていく。そして、やがてすべてが一様になり、静かに新しい エネルギーを待つのだ。 身支度を整えながら、ふと、人間も同じなんじゃないかと思った。 転校生が来るたびに妙にどきどきしたこと、転校生が来た早々彼と 喧嘩したこと、転校生をみんなで歓迎したこと、逆にシカトしたこ と、反対に転校生の周りで新しいグループができ、その中に入れず に寂しい思いをしたこと。今までに体験したいろいろなことが頭を 巡っていた。 身支度の最後に、新しい制服に袖を通し、新しい教科書の入った 新しい鞄を肩から下げた。 ……さて、どうなるかな。 僕は一人、心の奥でつぶやいた。僕は今日から、新しい高校へ通 い始める。
自分で焼いていた頃の古いモノクロ写真を整理していたら玲子の 写真が出てきた。玲子は、予備校で知り合った中田の妹で細身の可 愛いタイプで俺好みだった。懐かしいな、と写真をめくっていて思 い出した。 その年、夏休みも終わりに近い頃、朝早く俺は電話で起された。 大沢の彼女の史江からだった。なんだ、朝からのろけでも聞かされ るのかと気だるそうな声で電話に出た俺に、半べそかいているよう な声の史江が言った。 「大沢君が死んじゃったの」 まだ半分眠っていた俺の脳味噌は一気に目が覚めた。何があったん だ?1週間くらい前に、やつの部屋で酒飲んでギター弾いて一晩騒 いだばかりだった。 途切れながら話す史江によると、大沢は自分の妹と中田と中田の 妹の玲子の4人で神之島へ泳ぎに行って、昨日の午後、溺れて死ん だそうだ。中田は、水泳部で泳ぎがうまい。大沢の姿が見えなくて 探しはじめて、海の中に沈んでいる大沢を引き上げたのは中田だっ たそうだ。 「私、これから島へ行く」史江は、そう言って電話を切った。 翌日、新聞に「シュノーケル初使用で大学生溺死」と小さく出てい た。 通夜で中田は半狂乱に近かった。自分の親友を海から引き上げた 上に、死なれてしまってはショックもでかいだろう。史江は、気丈 夫にも 「私より、中田君の心配してあげて」とまで言った。 納骨も終って、涼しくなった頃、俺はひとりで大沢の墓を訪ねた。 妹が墓まで案内してくれた。俺は、持参したオールドの瓶を持ち上げ 「飲めよな」と心の中でつぶやいた。 そんなことを思い出して、玲子に電話してみた。玲子はまだ独身 で親元に住んでいた。ちょっと会わないか?と誘うとドライブでよ ければいいよという返事だった。最近、運転が楽しいらしく黒のセ リカに乗っているそうだ。玲子らしいな。というのが俺の感想だっ た。 玲子の運転で、海辺をドライブしていて大沢の話になった。あの 夜、中田は警察に事情聴取に出かけていて、民宿で大沢の妹と二人 きりのとき、窓の外に人の気配を感じた。二人で意を決して、窓を 開けたそうだ。けれど、誰もいなかった。 玲子は、前の信号機を見つめながらはっきり言った。 「ぜったいに誰か居る気配がしたの。私、大沢君がさよならを言い に来たんだと思ってるの。今でも」 俺は、ちょっと背筋が寒くなった。ここを右折すると裏道で近道な のだけどなと思ったけれど、声に出せなかった。
九月も下旬になって、漸く季節の変わり目を感じさせるような風 が吹き始めた街。その雑踏を見下ろす窓には大振りのカーテン。そ の脇には大型の観葉植物。それらを背にした事務机に営業第三課の 課長が着席している。営業第三課は、東南アジア諸国を対象にした 輸出入の仲介を主な業務としている。課内は今朝も慌しい。 9:18am 「課長、犬山商事の件ですが」 「なんだ川本、まだ居たのか。早く行かないとだめじゃないか」 「僕、行けません」 「行けませんって、何故だね」 「実は僕河童なんです」 9:26am 「つまり、甲羅は家に置いてきた。頭の皿には植毛を施した。嘴は ちょっと痛かったが削った。背が低いのはシークレットブーツでカ バーした。水掻きはいつの間にか縮んだけど、その理由は河童だか らよく解らないと? そういう訳なんだ。」 「はい、そういう訳なんです」 「でもね、どうやって我が社に入ったのよ。入れんでしょう、河童 は?」 「人事部に父の知り合いが居りまして、あまり問題なく入社できま した。面接でも河童かどうかは聞かれませんでした」 「お父さんの知り合いって、お父さんも河童でしょう?」 「いいえ、里親の方の父で、人間なんです。どうして人間のもとに 里子に出されたのかは、僕河童なんでよく解らないんです。」 9:42am 「俺は部長になんて説明するわけ? 『部長、実は川本君は河童で して、犬の字がつく会社へは外回りに行けません。どうぞ宜しく』 って? とても言えないでしょう。頭が変になったと思われちゃう でしょう」 「でも、課長は部長とはたいへん御親密と伺っております。二週間 前の金曜も二次会、三次会までハシゴで飲んで、夜中の三時過ぎま で大いに語りあったとか。」 「あれはねえ、方便。課内の者にちょっと吹いただけ。実際は九時 前にバイバイして帰ったの」 突然、大きな音を立ててカーテンと観葉植物が動き出し、課長の 両脇を取り押さえた。 「ついに、自供したな。これで二週間前のアリバイは崩れた。麻薬 密売容疑で逮捕する」カーテンが怒鳴った。 「わっ、何をする。待て、待て。こんなものは自供じゃない。第一 これじゃあオトリ捜査じゃないか。証拠にはならないはずだ。手を 放せ」 「確かにオトリ捜査だが、違法ではない。人間の捜査員によるオト リ捜査は違法だが、大丈夫、川本君は河童だ」 課長、カーテン、観葉植物に見つめられた川本君は頭のお皿を撫 ぜていた。 10:07am 犯人逮捕。
「一見は禍々しいイメージ。だが注視すればそれは淡い光の集積で ある。中央に配置された赤い閃光に、吸い込まれ、身体を焼き尽く される。」――日本画廊96年二月号 腎臓が悪いのだ。親父は、不気味に濁る小便でビニールパックを いっぱいにしながら、暗闇にうめいていた。医者は、気が丈夫であ ればと言った。親父の神経はすっかり磨り減っていた。手を握ると ガサガサで生暖かかった。今までに百五十枚を数える油絵を描いた 右手だ。 親父はひとつの岩石だった。他人には興味がなかったのだと思う。 俺をこの世に出現させたことは、まるで奇跡だった。朝飯を食らい アトリエに行く、その背中はけして丸くはなかった。 一度アトリエに行ったことがある。広々として、趣味のよい明る さがあった。スタンドや画材がちらかり、主のように据えられた1. 8m×4.2mのキャンパスは、製作途中だった。表面はぬらぬら していた。幼かった俺はそこに指を伸ばした。触れてみたかったの だ。 刹那、殴られた。衝撃に転げた。世界がゆれた。親父の言葉を背 に聞いた。「作り直せないものはないが、触れられれば壊される瞬 間がある」それからすぐに、俺は泣いた。親父は寡黙な男だった。 真面目に俺に言葉を吐いたのは、その時きりだった。 96年一月。親父の描いた絵が東京国際抽象画コンクールで特選 をとった。タイトルは「天上の災禍」。その賞は親父の目標だった と聞いていた。しかし親父はそのときを境にしおれていった。岩の 表面にびっしり苔を生やした。 シンナーの匂いがする、濃密な空気の中で、俺は絵に対面した。 絵を眼前にして初めてわかった。親父は得られない答えを探し、筆 を執っていたのだ。そしてそのやりきれなさを描いてしまったのが 「天上の災禍」だったのだ。この絵が賞をとったことで、親父の一 瞬一瞬は破壊されたのだ。そして親父はかつての自分を作り直すこ とができなかった。 俺は薄闇の中で光る、絵の表面に指を当てた。乾いていた。指紋 すらつかなかった。 俺の足元に洗浄油をいれた缶があった。俺はそいつの中身を絵の 表面にぶちまけた。ポケットには紙マッチがあった。震える手で火 を点した。周囲がぼんやり明るくなり、いっそうつやつやした絵に 俺の姿が映った。俺は誰かに火を投げた。 たちまち燃え上がる。熱気が俺を焼いたが、動けなかった。俺の 影が長くなり、室内を揺らめいた。俺の影が大きくなり、室内に黒 く広がった。
知らない誰かに連れられて、知らないどこかの町に行ったことが ある。僕は小学校3年生で、阪神タイガースの帽子をかぶって体の 割に大きな黒いランドセルを背負っていた。町はオレンジ色の夕焼 けに包まれて、薄い膜がかかったみたいにぼんやりとしていた。電 柱に貼られたパン屋のビラを見て、犬がワンワンと吠えていた。遠 くで電車がガタンゴトンと音を立てて走っていた。 知らない誰かは表情ひとつ変えずに、川にかかった鉄橋をじっと 見ていた。 「おじさんはだれなの?」 僕は聞いてみた。けれど彼はなにも答えず、薄くなった頭を掻い ていた。しばらくして僕のほうを見たけれど、すぐに顔をそむけた。 ちょっとだけ見えた彼の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。夕 日がまぶしかったのかもしれない。 彼の髪の毛はもうほとんど無かったけれど、白いひげはふさふさ していた。僕は彼を白ひげと呼ぶことにした。 鉄橋を眺めて目を細めていた白ひげは、ポケットからミカンを取 り出して言った。 「食うか?」 僕が首を振ると、白ひげは一人でミカンを食べた。 河原に座って、白ひげは僕にいろんなことを話した。阪神タイガ ースが好きなこと、ミカンの栽培をやっていること、台風で大きな 被害にあって、それが原因で奥さんと分かれたこと、そのとき、生 まれたばかりの赤ん坊とも分かれてしまったこと、その赤ん坊と僕 がなんとなく似ていて、つい僕に声をかけてしまったこと。 「僕の前のお父さんも、僕が赤ん坊のときにいなくなっちゃったん だ」 僕がそう言うと、白ひげは泣きそうな顔で笑った。 夕日が落ちてきた。薄暗い景色の中に、電車の窓が明るく浮かび 上がっていた。 「もう帰らなきゃ。お母さんが心配する」 僕は立ち上がった。 白ひげはとても悲しそうな顔をした。 楽しそうな家族の笑い声が、どこか遠くから聞こえてきた。 白ひげと僕は、家から少し離れたところで分かれた。分かれ際に、 白ひげは僕にミカンを一つくれた。僕は礼を言ってそれをランドセ ルにしまいこんだ。玄関のところで振り返ると、白ひげはまだ同じ 場所に立って、ミカンを食べながら僕のほうを見ていた。 今でも秋になると、僕はあの日のことを思い出す。オレンジ色の 夕日、遠くの電車、ミカンの匂い。 僕は庭に生えているミカンの木から、ミカンを一つもいだ。ミカ ンはちょっとすっぱくて、僕は久しぶりに泣きそうになった。
右足はアクセルを深く踏み込んでいる。 視界に入るネオンは流れ星のように後方へと流れ去る。 「ちょっと、スピード出しすぎよ!」 助手席の女が叫んだ。女の瞳は恐怖に慄いてきた。 「怖ければ降りろよ」 僕は冷たく言った。 「停めてよ! 停めて!」 乗ったおまえが悪いんだよ。スピードメーターは振り切っていた。 自動制御は突破らってある。壊れるまで走り続けるだろう。 ハンドルに手を伸ばそうとした女の頬を殴った。 「死たいのか! ハンドルを数センチ動かしただけで横転するぞ!」 女はシートに身を丸め込んだ。しょんべんをちびるかもしれない。 夜の高速道路。 町で声をかけられただけで、知らない男の車に乗り込んでしまう 女。自業自得だ。 僕はいつ死んでもいいのだから。 2ヵ月前に彼女とちょっとしたことで喧嘩した。彼女は僕の部屋 から、深夜の街に飛び出していった。とたんに不安になった。探し に出たが、見つかるわけがない。彼女からの連絡はない。あったの は警察からだった。ナンパされて乗った車が事故を起こし、大破し たそうだ。 死亡・・・ その言葉が理解できなかった。 見ず知らずの男の車に乗って死んでしまったのだ。 深夜、彼女がナンパされたあたりで、彼女に似た女を見つけ、声 をかけた。彼女は小首をかしげて笑った。もちろん知り合いではな い、見ず知らずの女。 「いい車ね。乗せて!」 勝手にドアに手をかけた。彼女に似た女に怒りを感じた。高速に 入り女が恐がるまでスピードをあげる。死んでもかまわないという 気持ちが女を恐怖に導いていた。 あれから週に1回は女を乗せて同じことを繰り返している。恐が る女はまた元の場所で降ろしてやる。ただそれだけ・・・ その夜の女はさっきまで身をまるめていたのに、スーと座り直し 僕を静かに見ていた。恐がらないのだ。スピードをだしても、ずっ と僕の横で僕の横顔を見つめていた。気持ちが悪くなってきた。女 は激しい走行音の中、小さく声を出して言った。聞こえるはずのな い声が頭のなかに刻まれる。 「楽しいの?」 彼女の声だった。 「おまえなのか?」 女はそれ以上話さなかった。 知っているさ。こんなことしたって何にもならないって・・・別 におまえに会いたかったからでもない。ヤケでもない。ただ回数を 重ねて、ナンパとそれにのる女の正当性を感じたかっただけだ。 僕はスピードを落とした。
その夜、こんな夢を見た。 辺りは果てしなく続く地平線ばかりで何もない。僕の手には桃色 の風船が握り締めてあった。それはゆっくりと膨らみ出し、みるみ る軟らかな楕円球を作り出していった。適度な大きさになったとき、 僕は幸せだった。その軟らかな感触、半透明に赤らんだ体、まるで 恋人のようにいとしく感じた。僕は彼女を抱きしめていた。このま ま永遠へと行ってしまいたい気持ちだった。 その時、空から一羽の烏が現れた。彼はまるで僕の不幸がなんで あるか知っているかのように風船を狙った。僕は負けじと必死にな って風船を抱えた。烏はあくまで風船を狙っているようで、僕を傷 つけようとはしない。しかし、しばらくすると僕の体をつつくよう になってきた。それどころかいつのまにか烏の数が増えている。僕 はどんなに傷つこうとも彼女を守ろうと思った。腕にも力が入り、 彼女はだんだんいびつな形になっていった。烏の攻撃がいよいよ過 激になったその時、 <風船は乾いた音を立てて割れてしまった> 風船の中には、きれいな小石が入っていた。 目覚めると、時計は5時半を回っていた。暁が部屋を照らし始め ている。少し寒気だった空気の中で、自殺した彼女が頭に浮かんだ。 僕は彼女を愛していた。あまり荷を愛してしまったがゆえに、彼 女にほかの男とあわせるのを嫌った。彼女は同意してくれた。僕の 部屋の中に閉じこもって、僕が帰るのをずっと待ってくれた。たま に外に出るとしても、彼女は決して男には目をむけなかった。 彼女が死んだとき、彼女の小指には赤い毛糸が結び付けてあった。 そこに続くものは、渡した覚えのない指輪だった。
「死因は絞殺。マフラーの巻過ぎが原因と思われます。被害者は 都立の大学に通う女子大生。勝負パンツでした。」「おう」森山周 一朗の声にかぎりなく近い粋な敏腕刑事、金田一玉牡(キンダイチ タマオ)通称キンタマ刑事だ。「カタタマ刑事はどうした?」キン タマ刑事の相棒片岡玉助(カタオカタマスケ)は盲腸で緊急入院し てしまった。剃毛中に海綿体が充血してしまったカタタマさんの入 院はちょっと長引きそうだ。「じゃあしょうがない。このアパート の管理人を連れてこい。」キンタマ刑事のエラ呼吸が始まった。 「刑事さん。ほんとだべ。部屋にはいったときには誰もいなかっ たべ。カギもしてあったし」管理人は汗だく大盛りの味噌汁的な感 じで右往左往、向き不向きであった。誰がどう見ても犯人は管理人 であったが、証拠がない。内籐やすこ。キンタマ刑事はタバコを吸 いにベランダにでた。キンタマ刑事は思わぬものを発見した。 BB 弾だ。キンタマ刑事は発狂した。「わかったー。大森うたえもーん」 部下から拍手があがる。「謎はすべて解けた。僕の名前を知ってる かい?金田一玉牡というんだよ。お金は田んぼが一番だ。玉は牡の だいご味だ!ハイハイハイハイ」決め台詞をきめ謎ときがはじまる。 「管理人さん。やはり犯人はあなたです。私は部屋にはいって不 思議に思ったんですよ。独り暮らしなのになんで冷蔵庫に野菜がい っぱいか?カレンダーが去年のままか?そして、テレビのリモコン ボタンの1chの消耗のはげしさ。それはずばり、そんな人だったん でしょう。被害者が。でもね、でもさ、ベランダのBB弾はおかしい よ。この部屋には鉄砲がないじゃん。」管理人さんは慌てて泡をふ いている。「ずばりこの事件は事故死です。」管理人さんの腕から はハサミがはいてきた。「被害者は節分の豆のかわりに管理人さん の部屋から大量のBB弾をゲットした。そこに親友のとみ子からのT EL。被害者はこのときに豆をまいて電話していたのです。豆まきは 今度のオリンピックでも公開競技になる人気種目。興奮してたので しょうな。興奮すればするほどマフラーが巻き付いた。あなたは被 害者に大量のBB弾を渡した自殺幇助の疑いで剃毛する。つれてけ。」 『愛という名の海に潜ってみた。底ってあるかな?あるさ。どんな 深い海でも底は存在する。しなければ、海じゃないからね。』キン タマ刑事はそんな言葉を残して帰っていった。
風が変わったんだ。涼しくて気持ちいい。私はそんな風を楽しみ たくて、わざと自転車をゆっくり漕いだ。だから、土手の芝生に寝 転んでいた浩を見つけられたんだと思う。 「なにしてんのよ、こんなとこで」 私は自転車を土手の上に置いて、浩の側まで降りていった。浩は ちょっと私の方に目を向けたけれど、すぐ空に視線を戻してしまう。 「パンツ見えてるぞ」 頭に血がざあっと昇っていくのが分かった。慌ててスカートを押 さえたけど、浩はそんな私を見てもいない。馬鹿らしくなって、ひ とつ溜め息をついてから、私は浩の隣りに座った。 「で、なにしてんの? 悩み事?」 浩はなんにも言わない。普段はよくしゃべるくせに。 「ねえ、浩は千字どうすんの? もう来週締切りよ。今日も水沢先 生探してたよ」 浩がすうっと息を吐いた。私はじっと浩の目を見ていた。浩は食 い入るように、空を見ている。それから、ささやくように言った。 「なあ、太陽の裏側ってさ、どうなってるんだろうな」 私は浩の顔を見る。無表情は変わっていなかった。 「そんなの…、太陽は太陽よ。表も裏も同じじゃないの」 「でもさ、地球は太陽の周りを回ってて、太陽をぐるっと全部見て るんだけど、やっぱりあの太陽の陰に隠れてて、ここからは見えな い場所があるんだよ。そこはきっと明るいけど、地球は絶対に見え ない」 私は空を見上げた。今日の空は薄い青で、おまけに雲も薄い。そ んな空の中で、太陽の光は強烈だった。 「でも、待ってたら、また太陽の向こうから地球が見えてくるわ」 浩が私の方を見ている。私は空を見上げたままでいた。 「美夏はもう千字書いたのか?」 「まだ」 私は舌を出す。 「今日書くの、今日」 私は勢いよく立ち上がった。 「俺はだめ。書かない書けない」 また腕を枕に空を見上げた浩の手を、私は強引に引っ張った。 「もう、まだ一週間もあるのよ」 重くってなかなか立たせられないでいたら、浩はふっと私の手を 握って立ち上がった。 「行けるかな」 「え?」 「太陽の裏側にさ」 浩は笑って私に言う。 「あ…、うん、宇宙旅行だってそのうちできるみたいだし、浩がお じいちゃんになったころには、太陽の裏側だって行けるわよ。そう そう。念じればできるのよ、なんだって。書こうと思えば、千字だ ってすぐ書ける」 「ばーか」 私も笑った。 今日はやっぱり涼しい。風が変わったんだ。秋に向かって。
困った男がいた。自称、小説家である。 その男が3杯目のホッピーを飲み干して言うには、若い頃、どこ かの雑誌の新人賞で、最終選考まで残ったらしい。 「それはつまり、文壇に片足を突っ込んだも同然、ということだね」 と言って、男は4杯目を注文する。 しかし、男の小説はその後一度たりとも世間の目に触れたことは ない。片足作家である。 それでも、男は自信に満ち溢れている。 「いいかい、小説家の仕事は、ただひたすら小説を書くことなんだ。 売れる売れないは俺の知ったことじゃない」 なるほど。疑念を差し挟む余地はない。あんたは小説家だ。じゃ あ、がんばってね。 立ち上がろうとする私の袖を男は離そうとしない。 「少し困った事があるんだ」男の眉がぴくと動く。「じつはね、悪 い事をしないと、小説が書けないんだよ」 「はあ、じつに、困った事態です」 10坪ほどの店内に、男たちの熱い息が渦巻いている。 「でも誤解しちゃいけないよ。悪い事をしないと書けないのであっ て、悪い事を題材に書いているわけじゃない」 それにしても、どうして深刻な顔とホッピーは似合わないんだろ う。 「下着泥棒だよ」いよいよ困りました。「でも、下着泥棒の話じゃ ない。そういうことだ」 自称ではない、この男の本質を言い表す言葉は何だろう? 「片 足作家」は一般的な肩書とは言えない。それに、いまどき片足くら いじゃベストセラーにはなれない。 「昨夜も、文覚上人が那智の滝に打たれている場面で、ぱったりと 筆が止まってしまったんだ」 それで、急いで外に出て、目に付いた下着を手当たり次第に盗ん だらしい。 「まあ、お陰さまで、その後の執筆は順調だったけどね」 お陰さま、とは一体何だ。私は溶けかかった氷を噛みしめ、亡き 母の言葉を思い出す。深く考え過ぎるといい事はない。うん、そう だ。水っぽくなったチューハイを一気に呷り、私は立ち上がった。 すると、男は急に悟った顔をして、私の手から伝票をひったくっ た。 「盗んだブラも有縁、酒場で隣り合うも有縁。まあ、いいじゃない か。俺におごらせてくれ」 「そんな、初対面の方にとんでもない」たかだか2千円の飲み代で 下着泥棒の友達にはなりたくない。「それに、そんな善いことをし たら、書けなくなりませんか?」 「気にしなくていい。書けなくなったら、下着を盗むまでさ」 白髪まじりの前髪をさっとかきあげると、男は爽やかに微笑んだ。
タカオはつまらない男だったので、女性にはもちろんのこと、同 性にもモテない。つまらないタカオは、つまらない職場で、つまら ない仕事をこなし、家に帰れば、つまらないテレビを観、ベッドで 見る夢すらつまらない毎日に、ほとほとイヤケがさしてしまい、と うとう、デパートの屋上、フェンスの外にあって、地上を見下ろす に至った。 ふと地上からタカオに向かって、白いモヤのようなものが、いき おいよく上昇してくるのが見えた。タカオと同じ高さにくると、そ れはヒトの形をとった。宙に浮いた女のようなものが、言葉を発し た。 「やっぱり。あんた、自殺しようとしてんのね?」 「なんなんだ、きみは」 「つまんない質問しない。見たまんまだし。あたし、去年ここで死 んだのよね。飛び降りて。でもさ、なんか、つまんない死に方し ちゃったな、って後悔中。それにさ」 あっけにとられるタカオにおかまいなく、女のようなものは、し ゃべり続けた。あっけにとられているため、ほとんど聞いていない。 「というわけよ。ね、まいるでしょ?」 「あ、ああ、まいるね」 「つまんない返事ね。つまり、あたしは成仏できないの。死に方に 未練があったから。だから、あんたがおもしろく死ねるように手伝 えば、成仏できそうなわけ」 たしかに投身自殺なんて、よくある方法だった。つまらなく生き てきたのだから、せめて最期は、おもしろしく死のう。とはいえ、 つまらない男なので自信がない。この、女のようなものに手伝って もらうことにした。 屋上のベンチに座って、ハタから見れば、タカオがひとりでウン ウンうなずいているだけに見える。女のようなものは、死んでから のち、他に考えることがなかったのか、ありとあらゆる自殺のアイ ディアを出した。水族館のピラニアに食べられて死ぬ。ケン玉を喉 につまらせて死ぬ。バナナの皮ですべって、打ちどころが悪くて死 ぬ。などなど。 「あんたは、なんかいいアイディアないの?」 「ほとんど出つくしてるけど、そうだな、投身は投身でも、投身自 殺に失敗して死ぬというのはどうだろう」 「思いつかなかったわ。おもしろい発想だけど、それって死ねない し」 かくしてタカオは、生まれてはじめて、おもしろいと評価される 分野を発見した。しかもこれ以来、ちょくちょく女のようなものが 家にやってきて、どう死ぬんだと問いにくるのだから、世の中おも しろいこともあるものだ、と思いながら、タカオは毎日を生きてい る。
ある意味に於いて森の中で熊に出くわすことは必然であろう。森 の入り口には「熊出没注意」の看板が掲げられていたし、森の小径 にも同様の看板がいたるところに掲げられていたのは十分に承知し ていた。だが、熊といえば、もちろんその存在は十分に心得てはい たものの、欺瞞に満ちた映像の中かあるいは檻の中に在るべきもの であって決して森の中で出くわすものではないという潜在的な考え があっても然るべきであろう。 もちろん、おれが熊より先に熊に気付いていたならば踵を返し死 に物狂いで走り出すことも可能であったかも知れない。あるいは、 出くわした熊が親熊とはぐれた生まれたばかりの小熊であったなら ば殊更考える必要もなかったであろう。 思考能力が弱まってきたのかもしれない。熊に横っ面を張り倒さ れたおれは空中を吹っ飛びながら考え続けていた。 これで気が済んだのなら熊は立ち去るであろう。森でたまたま出 くわしただけで何の罪もないであろうおれの横っ面を思いっきり張 り飛ばして気が済んだのなら熊は立ち去るであろう。その可能性は 否定できないはずだ。これは確信に近いものがある。もちろん熊が 立ち去るという確信ではなく、熊が立ち去るという可能性を誰も否 定できないという確信である。 地面に叩きつけられたおれは霞み始めた視界の中で熊を捜した。 捜す必要もないくらいに熊はおれの目の前に存在していた。牙を剥 きだし唾液を垂らした熊は今まさにおれの頭にかぶりつこうとして いた。 ある意味に於いて森の中で熊に出くわすことが必然であったとし ても、熊が出くわした相手がおれである必然はなかろう。何も、極 めて酷似した時に、極めて酷似した場所におれと熊が存在する必然 など無いのではないか。あるいはおれが森の中で出くわしたのが熊 ではなく人であったならば「こんにちは」という一言で済んだので はないか。人であれば森の中で出くわした相手の横っ面をいきなり 張り倒したり、頭にかぶりつこうとはしないのではないか。 思考を続行することが困難になってきたのかもしれないような気 がするし、ミシミシって音は、おれの頭蓋骨がミシミシと音を立て ているのかもしれないからもう助からないかもしれないし、森の中 で出くわしたのが人ではなく熊であっていきなり横っ面を張り倒さ れて頭にかぶりつかれたのがおれであるということは決して否定で きないということかもしれないし、これは限りなく確信に近いかも しれない。
今日、関東がついに大坂攻めの軍令を発したという報せが入った。 世間では、関東に対抗して一歩も引かぬお袋さまは、猛々しい生 命力を持つ女性であり、余はその母公の言うなりの操り人形と見て いるが、それは間違いである。 たとえば、高台院さまはどうであろうか……。あの関ヶ原の折、 あっさりと三の丸を出られて京の三本木に隠棲なされ、以来今日ま で世に顕れず、ひっそりと暮らしている。これを見て、誰もが、淡 泊な方と申し上げるが、余に言わせれば逆なのである。あのお方が あっさり豊家を見切られたのは、自らが生きんとする、その強い意 志を持たれていたからに他ならぬ。 福島、加藤、浅野などの大名にしても同じことである。彼らがい かに豊家を大事に思うとしても、あの関ヶ原で徳川内府に合力した 段階で、彼らは新しい歴史の流れを作り、それに自ら乗ったのであ る。 しかし余は、決して彼らを悪む気は起こらない。むしろ、世の流 れが如何になろうとも、自らの進むべき道を見つけて生き抜いてゆ く人々が羨ましくてならぬのである。 恐らく、余が本当に生きるつもりならば、この城を出て、徳川家 によって大和のどこかに五万石ほどで封じられればよいのであろう。 現に伊達侯などは、常高院どのを通じてそのような策を献じてきた という。 しかし余はどうしても、そんな小城で領国経営に心を砕いている 自分を想像できなかった。これまた世上の取沙汰では、この城から の退去を頑強に拒んだのはお袋さまであるとされているが、お袋さ まにしても、亡き太閤殿下の一の側室であった以外の自分を考える ことができぬだけである。 人は愚かな意地と言うであろうが、実際はそうではない。この天 地の間に自らの生きるべき道を見つけられぬ、生命力の無さがすべ ていけないのである。自分ばかりではない、この城へ集まってきた 牢人たちから見れば、余は死神の如き者であるかも知れない。 しかし、本当に余を「死」の中に閉じ込めているのは、この城で ある。暮夜、お袋さまに当てがわれた、これから起こることなど何 も知らぬ伊勢の方を横に臥せさせている一刻など、この城全体がぎ しぎしと音を立てて、余を締めつけようとしているのをすら感じる のだ。 余の祖父に当たる、浅井長政という武将のことが、この頃では懐 かしく想われる。彼が信長公に最後まで楯を突いて、討死した城は、 いかなる所であったろうか。
「最近は何もかも電子メールになっちゃって、ナマの手紙が全然届 かないのよ。このままじゃあ、ウチのテガミヤギちゃんは餓死しち ゃうわ」 「はあ、テガミヤギですか」 「そう、手紙しか食べない幻のヤギなのよっ。消印が押された手紙 しか食べないのよっ。ヤギが死んだらアンタたち郵政省のせいだか らねっ。このっ、このっ」 「うわっ、いてて、いててて」 へんな婆さんが郵便局に怒鳴り込んできて日傘で僕をバシバシ叩 くのは、今日でもう三度目になる。そんなこと、単なる窓口業務の 僕に言ったってしょうがないのに。これじゃあ仕事にならない。 ヤギに三日とあけず手紙を書け、という局長命令が下った。なん だそりゃ。 「ヤギさん元気ですか。僕は元気です」 「今日のお昼はコロッケ定食を食べました」 「彼女ができました。ヤギさんに彼女はいますか? ていうかオス ですか?」 「今日はお年玉つき年賀状で手紙を書きます。4等が当たっている やつなので、きっとおいしいぞ」 どうせ相手はヤギなのだから、読まずに食べてしまうにきまって いるのだ。そんな気楽さから、とりとめのないこと、プライベート なこと、様々なことを書きつけた。 アンタの手紙はとてもおいしそうに食べるのよ、そう言って菓子 折を携えた婆さんが局にやって来た。ヤギがどのように僕の手紙を 食べ、いかに喜んでメーと鳴くのか、婆さんはまるで自分のことの 如く子細に、他の職員たちの前で語って聞かせるのだった。なんだ か、すこし恥ずかしかった。 婆さんから手紙が届いた。引越しをするという。引越し先の住所 は記されていない。僕は晴れてお払い箱となったというわけだ。新 しい土地の郵便局員が、僕の業務を引き継いでくれることだろう。 婆さんからメールが届いた。「電子メールにて引き続きお願い致 します」という文と、「emailyagi」という添付ファイル。これは おかしい。電子メールじゃヤギのエサにならないじゃないか。それ に、彼女に僕のアドレスを教えた覚えはない。少し気味が悪くなっ て、添付ファイルは開かず捨てた。 婆さんのアパートの管理人から手紙が届いた。彼女が亡くなった という。身よりのない彼女の遺品整理を、他に誰もいないのでどう しても、ということだった。 案内された部屋を見まわす。小さい部屋だ。目につくものといえ ば、新品のノートパソコン、僕の送った手紙の山。ヤギはどこにも いなかった。第一、アパートではヤギは飼えない。
手洗いから戻る途中、観察舎の陰で屈み込んでキスしている若者 たちを見かけて、擁子は慌てて視線を逸らした。夕暮れ時には相応 しいような気がして笑みを漏らす。何というか、首の角度や膝の曲 げ具合に行為に対する熱心さが表れていて、その切なく可憐しい感 じに打たれた。 妙に気恥ずかしい気分のままに、池の岸にいる夫の背中を見つめ ながら近寄る。夫は双眼鏡の中の世界に夢中で、自分の接近にも気 づかないように見える。 並んで静かに問いかける。 「何が見えるの」 「鴨のね、親子がいる」 「そう」 「かわいいよ」 夫は双眼鏡から目を離すと擁子に微笑みかけ、覗くように目で合 図する。 レンズの中に鴨の行列がいた。葦の茂みに寄り添うようにしてゆ っくり前に進んでいる。それぞれの尻から緩やかな波がうねってい る。思わず口元が綻びる。な、と夫が耳元で囁く。擁子は小さく頷 く。 かわいい、と呟いてふっと寂しくなった。ただ無心のうちに列を 作って水面を滑っている鴨たちをじっと見つめるレンズの中の両目 が、じんわりと熱を帯びてくる。喉に少し傷みを感じる。夫にこの 顔を見せたくない。腰をいよいよ屈ませて、鳥の姿に夢中になって いる体を装う。 ジッポの火が点るときの油の匂いがする。パチンと金属同士がぶ つかる軽やかな音が響いた。鳥たちの鳴声だけの静けさの中に、自 分と夫との微妙な距離を感じる。 「だめよ、けむいわ」 擁子は双眼鏡から離した目を手の甲でこすりながら、夫に笑って 訴える。 「ごめん、これだけはやめられないな。残念ながら」 夫は煙を深く吸う。携帯用の灰皿に灰を落とす。擁子は夫の顔を 見て、この人も老けたと思う。 再び夫は双眼鏡を覗く。擁子はその横で、夕闇に溶け込みそうに なりながら微かに姿を認められる鴨の親子に視線を合わせる。 「キス見ちゃった」 秘密を打ち明けるように囁く。 「いつ」 夫は姿勢を変えずに低い声で訊く。 「さっき、トイレから戻ってくる途中」 「観察舎のところか」 「そう。なぜ?」 「その前に俺が通ったときもしてたよ」 擁子は俯いて笑い声をたてる。夫も鼻で笑う。 「いいもんだな」 レンズから目を離して夫が柔らかな笑顔で言う。 「してみようか」 「私なんかでいいの?」 夫の顔が僅かに歪む。擁子は少し悲しくなる。 「馬鹿」 擁子の手を温かな大きな手が握る。その手を強く握り返す。夕闇 が濃くなる。鳥たちが鳴きながらどこか寝床へ向かって飛び立って いった。
私がまだプー太郎だった時の話です。 暑いし何もすることがなくてぶらりと近所の公園に行きました。ベ ンチに、どてーっと、座り込んでいました。なんぴとたりとも、わ しをどかすことはでけへんで、てなもんです。ユーカリの高い木々 が並び、木漏れ日がチラチラ瞬いて、それはもう至福の時でした。 ふと見ると、人がとうてい届かない枝のところに電話があるのです。 近づいてよく見てみると、最近見かけないジーコジーコのダイヤル 式でした。ご丁寧にモスグリーンのやつです。不思議な光景で見入 ってしまいました。針金かなにかでくくりつけられているようで、 引っ掛かっている風ではありません。誰が何のために……。疑問は つのるばかりです。オブジェ? 前衛芸術? だとしたら、一体何 を主張しているのだろう。私は暇に任せてとことん考えてみること にしました。 あ、ユーカリだけに、コアラ? そう言われてみれば、(誰も言っ てないっつうの)耳と口を当てるところが、コアラの耳に似ていな いこともない。あるいは、現代の電話はコアラの如きであるという 象徴なのかもしれない。電線で繋がった相手とでないとなにもコミ ュニケーションをとれない現代人。その道具としての電話。あー嘆 かわしき現代人よ、いずこへ。くーっ、渋いね、あたしって。 ここまでくると私はあぐらをかいて、草むらに座り込み、一人不気 味に笑っているのであった。(誰かが見てたら、さぞや恐かったで あろう) いや、もっと単純か? コアラのための電話。(だからきちっと受 話器が置かれているのだ)怠け者のコアラが電話を掛ける。 あのー、二丁目の公園のユーカリだけど、うん、そうそう。ピザを ね、一人前。サクサク生地で、うん、アンチョビと赤ピーマンを、 そう、いつものように、うん、お願い。左から三番目、間違えない ように。 私は寝そべり、腹を抱えて笑っている。コアラが片手で木に掴まり、 受話器を耳に当てているところを想像すると、それをおかずに一時 間は笑っていられる。 ふーっ、それにしても暑い。ずいぶん日に焼けちゃったよ、まった く。なにをバカなことしてんだか。明日から仕事探そーっと。 私は立ち上がり、とぼとぼと家路にむかうのであった。
「何をして遊ぶ?」
「かくれんぼしよっか?」
「2人しかいないんだ、もっとましな遊び考えろよ」
「じゃあ、お兄ちゃん、いつものように考えてよ」
何して遊ぶか決めるのは、ほんの少し年上のお兄ちゃんの役割だ。
弟はうれしそうに目を輝かせてお兄ちゃんの言葉を待っている。
「よし、いい事思い付いた」
弟は目をさらに輝かせて、お兄ちゃんを見上げた。
「あそこにいろんな色、大きさをしたボールみたいなのが見える
かい?」
お兄ちゃんが指差す先には確かに大小いくつものボールみたいな
ものが見える。
「ルールはね、あれのどれかに石を当てるだけ。簡単だろ?」
「あのしましま模様のに当てたら5点、あの真っ赤なやつが3点、
あの真ん中にある黄色いやつは1点……」
お兄ちゃんは手際よく得点を決めていく。
「そして、あの青い1番きれいなのに当てることができたら10
点だ。あいつらは全部あの黄色いのを中心に動いてるから、ちゃん
と軌道を計算しないとだめだぞ。わかった?」
「うん」
もう投げたくてうずうずしてるようだ。
「僕は、絶対10点をねらうんだ」
そう言うと、お兄ちゃんの話もそうそうに、そこらの石を投げた。
「えい!」
石は他のには目もくれずに青いやつへと、真っ直ぐ飛んでいった。
その頃地球では……
「巨大隕石接近中、このままでは地球に衝突します」
その報告を受けた日のうちに対策が練られ爆破班が召集された。
全世界に放送されたニュースでは、爆破班の責任者が、流れる汗
をぬぐいもせず、こぶしを硬く握り熱弁した。
「世界中の皆様、何も心配は要りません。必ず我々が全人類のた
め隕石をどかんと葬ってやります」
そして爆破班は飛び立った。
数時間後、大音響と共に目に突き刺さるような光が暗闇を照らす。
しばらくして、静けさの戻った暗闇に無邪気な声がこだまする。
「やったぁ、10点だぁ!」
ナカウチ会長は迷っていた。自分の跡目に息子を据えていいのか ……。独裁体制だった自分の時代と何も変わらないんじゃないか。 ナカウチコンチェルンはナカウチ氏1代で築いた会社である。 しかし今では彼の力では立て直せないのではないか、そう囁かれ るほど業績は落ち込んだ。そこで自分の変わりに指揮を取れる人物 を探していた。候補は二人。息子のコウと、実力者のアカギ。 「社長とは、人の上に立つ人物とはどうゆう者ぞ?」会長は問う。 コウ、「何事も率先して、自ら行動を起こし、部下の信頼を勝ち得 る者。あなたの独裁はいき過ぎましたが、あなたを見て育った私は 同じ轍を踏みません。」 アカギ、「人を、人より多く、人以上に愛せよ。リーダーとはそう いった人物です。」 ナカウチ氏「それはおまえの信念か?」 アカギ「父の教えです。正確には母から伝え聞いた、偉大な亡き父 の信念です。」 数日後 「会長、なぜアカギに?実力的にも遜色はなかったはずでは?」 「昔、惚れた女がおった。人を愛する事だけに人生をつぎ込むよう な女じゃった。わしには妻がおり、どうしようもなかったん。その ときこんな嘘をついた。私は人の上に立つ者として、多くの人に愛 を注がなければならない、人を、人より多く、人以上に。だからお まえだけを愛する事は出来ないと、それからは会っておらん。彼女 はアカギという姓じゃった。」 「わしは愛を注ぐような社長ではなかった。独裁じゃ通用しないん じゃよ、今の時代は。アカギに賭けてみようと思った。それがわし の最後の独断じゃ。」
作品受け付け───8月8日〜8月31日迄(終了しました)
作品発表─────9月1日〜
人気投票受け付け────9月1日〜29日(終了しました)
結果発表────────10月1日
第7回1000字チャンピオン決定!!
一之江さん作『鳥類園夕景』に決定!!。
一之江さん、おめでとう。
心より感動の拍手を贈ります。
| 作品 | 票 |
|---|---|
| 鳥類園夕景(一之江) | 7 |
| 飼育(スケープゴート編)(ヒモロギ) | 6 |
| 天国にいるお父さんへ(Yamac) | 4 |
| 太陽の裏側(pavane) | 1 |
| 災禍(三月) | 1 |
| 傘(綾部正斗) | 1 |
| 流れ星(工藤裕也) | 1 |
| 生きる術(岡嶋一人) | 1 |
| 温度(根本智也) | 1 |
| おもしろい死に方(紺詠志) | 1 |
| 西瓜の日(ヒョン) | 1 |
| 微笑みの練習(HCE) | 1 |
| もう一人の私(ケイジ) | 1 |
| 悠久堂リング(ヒロト) | 1 |
●鳥類園夕景(一之江)
●飼育(スケープゴート編)(ヒモロギ)
●天国にいるお父さんへ(Yamac)
●太陽の裏側(pavane)
●災禍(三月)
●傘(綾部正斗)
●流れ星(工藤裕也)
●生きる術(岡嶋一人)
●温度(根本智也)
●おもしろい死に方(紺詠志)
●西瓜の日(ヒョン)
●微笑みの練習(HCE)
●もう一人の私(ケイジ)
●悠久堂リング(ヒロト)
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