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第8回1000字小説バトル
Entry10

蜘蛛の糸

作者 : GIN=YU=SIJIN
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文字数 : 522
 私は家の庭に仔猫を埋めた。
 寒いと、寂しいと、何度も何度も泣いて、私を苛んだその仔猫を、
私は埋めた。

 何を言っているのか聞き取れないほどの小さい声が、彼女の唇か
ら漏れ、そして冷たい夜の空気へと消えて行く。
 息が凍り付くほど白かったから、もしかしたら言葉は凍り付いて
しまっていたのかも知れない。
「埋めたのか?」
 後ろから、計ったように声がかかる。夜の明かりは冷たくて、月
も出ていない雪雲りの日はその人を只の影にしてしまう。
「……泣くなよ。ドアを開けなかったのはお前だろ?」
 がりがりとドアを引っ掻く音が朝方まで聞こえていた。仔猫の爪
は幾本か折れ、血がにじみ出していたのを覚えている。
 それでも分厚い扉が開くことはなかった。
「知ってるわ。それに、泣いてなんかない」
 頬が冷たいのは冬風のせいで、手に落ちてくる生暖かい物は冬空
の雪だと、彼女はそう自分に言い聞かせた。
 扉を開かなかったのは自分だから。
 暖かい場所に招き入れなかったのは、自分自身だから。
「だってこれは、当然の」
「当然のことだから……か?」
 言われて押し黙る。まさに自分がいわんとしていた言葉が、白い
息と共に吐き出されたからだ。
「私には資格がない、あの猫を救うだけの資格が……そう言いたい
のか?いや、そう言わなければならない……か?」
 畳みかけるような二つの問いかけに、少女は黙り込んだ。
 雪が世界から音を奪い、二人から言葉を奪い、沈黙と共に降る。
「蜘蛛の糸も望まないんだな。お前は」
 極悪人がある日助けた一匹の蜘蛛。釈迦はその日の善行を認め、
地獄に堕ちた男に一筋の糸を下ろす。
 自分に下る罰を待つ彼女はしかし、蜘蛛である筈の猫を助けなか
った。
「奪うことしか知らない…。救うなんて知らない…」
 土を盛り上げただけの墓を見ながら、少女はそっと呟いた。
 あのドアを開け、招き入れることも知らなかった。再び仔猫をド
アの外に出さなければいけないことが、分かっていたからかもしれ
ない。
 そう、知っていたから、開けなかった。
 後ろに佇むその人は、そっと溜息を吐いた。部屋から小高い電子
音が響いていた。
「行けよ、仕事だぜ」
 少女は何も言わずに、歩き始めた。

 あの猫は永遠なんか求めてなかったぜ。
 ただ一日、生きるだけで良かったんだから……。






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