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第8回1000字小説バトル
Entry11

伝七爺さんのホーホケキョ

作者 : 河村純
文字数 : 900
 伝七爺さんは毎朝5時キッカリに起きる。ここ十数年来続けてき
た、爺さんの自慢のひとつだ。毎朝のお茶も欠かさない。お茶の葉
は、京都から送らせている高級品だ。伝七爺さんの一番の贅沢とい
えるかもしれない。
 ところで今朝のことだ。目を覚ましてみると7時をまわっていた。
伝七爺さんは時計を見て首を傾げた。そんなはずはないのだが・・
・・・。乳白色の朝の光が、障子を透かしてやわらかく部屋の中に
居ずまいを正している。不思議な感じがした。爺さんの内臓に、ぬ
めっとした奇妙な感触ががとぐろを巻いて居座った。
 障子を開け、廊下に出てすぐのガラス戸を大きく開けると、外の
冷気が足許をさーっと流れていった。
「うう、寒い」膝が凍り付いたようになって、危うく庭につんのめ
りそうになった。身体をたて直し、遠くを見上げると、紅葉の終わ
った山なみの頂のあたりがうっすらと白くなっている。
「そうか、もう冬がやってきたのか」
 裏山の方から、一羽のカラスが舞い降りて庭の柿の木に止まった。
熟した柿の実をついばんでいる。
「冬になれば食べ物も少なくなるだろう。いっぱい食べて行きなさ
い」伝七爺さんは鳥や動物が大好きなのだ。村では頑固者で皆から
疎ましく思われているけれど、本当は、伝七爺さんは心の優しい人
間だ。
「おじいさん、熱いお茶がはいりましたよ」奥から嫁の声がした。
伝七爺さんは居間に行き、座椅子に腰をおろして嫁の入れてくれた
お茶を音を立ててすすった。爺さんにとって最も幸せなひとときだ。
 ふと爺さんは、ウグイスのことが気になった。この春に婆さんが
死んで、寂しかろうと嫁が町で買ってきてくれた。廊下の突き当た
りに掛けてある鳥かごのところへ行くと、ウグイスは寒そうに震え
ていた。
「よしよし、今熱いものを飲ませてやるぞ」爺さんは飲みかけの熱
いお茶を鳥かごの中のうつわに注ぐと、ウグイスは勢いよく飲み始
めた。
「うまかろう、うまかろう、うまかろう」爺さんが三度唱えるうち
にウグイスはばたりと倒れて動かなくなった。
「眠ったのかのう。じゃあ、わしももう一度寝るとするか」
 伝七爺さんは大きなあくびを一つして、いそいそと寝床の方へ向
かって歩いていった。






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