第8回1000字小説バトル
Entry27
博士は悩んでいた。 博士は何をやったら良いのかを悩んでいた。 博士なのに考えることがなかった。朝起きて歯を磨いて薄汚れた白 衣を着て毎日時間通りに研究室へ向かう。ねずみに注射したり、ね ずみがうろうろするのを一日中眺めて過す。暖かい日差しが心地よ い秋も近づいたある日、ねずみが博士に向かって言った。 「あんたいつも博士らしくないってラボで噂されてるぜ、ぼーっと してて役にたたないってさ」ねずみは純白の毛に覆われた小さな後 ろ足で立ち上り、くるくるとした赤い目で博士を見つめた。 「噂なんてどうだっていいさ。私は考えることが苦手なんだ。ねず みの君に頭を使って欲しいくらいさ。」 「ものぐさで、身体を使うのを嫌う者がいるが、私の場合頭を使い たくないのさ。どうして博士になったかって? 小さいときは考え ることが大好きだったんだ。小さいときにジャングルジムが好きだ とか砂いじりが好きだとかというのと同じさ。子供の頃に頭を使い すぎたから、燃え尽きてしまったってやつかなー」 「ところで君はどうして人間の言葉がわかるんだい?」 「ふん、頭を使ってるからさー」 ねずみは誇らしげに鼻を鳴らした。ひげの先が風圧でかすかに揺 れた。 「そうか、君に頭を使ってもらえば私の頭は使わなくてよい。」 博士はねずみの頭脳を使う薬とチップを作り出した。さっそく使 ってみたら、ねずみは人間の生命を脅かすウィルスを撃退する抗体 を数々発見した。それからしばらくの間、博士はその研究に関して の講演会で大忙しだった。 「私は講演会に行くのも大嫌いだ」 研究室の革張りの椅子にふんぞり返ると大きなあくびをしながら、 ちらりとねずみを見た。 「君が代わりに行ってくれないか?」 「俺も外の世界へ出てみるのにいい機会だし」 ねずみはぶっきらぼうに答えた。博士はまさに人間の皮膚や骨格 を再生させたロボットを完成させた。ねずみにロボットを操縦させ る。博士の助手ということでねずみの操作するロボットは数々の講 演をこなした。 「博士ーそろそろ講演会も飽きてきたぜ」 ねずみは痩せこけた頬を鏡に写して言った。 「しょうがないなーそろそろ君に代わるねずみのロボットを作んな きゃー」
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