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第8回1000字小説バトル
Entry29

足長おじさんの気持ち

作者 : アベタツヤ
Website : http://www05.u-page.so-net.ne.jp/qd5/s-kumiko/
文字数 : 972
 貴族の生まれだった。生まれたときから裕福な家庭にいた。お金
に困ることなど無かった。
 私は俗に言う「足長おじさん」である。祖父の代から代々そうだ
ったらしい。私の出す奨学金を受け取る女の子は「ルカ」といい、
高等女学院に通う。今市民革命の辺りの歴史を学んでいる、と先日
手紙が送られてきた。

ニャーオ
 友人の「ルカ」猫である。彼女はほぼ毎日私に会いに来ては餌を
ねだる。可愛らしい鳴き声で私はいつもほだされてしまうが、餌を
食べ終わると気ままなものである。
 だが食後一度は私に身を寄せて、ニャーオと鳴く。ルカなりの感
謝のしるしかと思い、私はそのたびに笑顔を浮かべてしまう。執事
にはいつも「ノラ猫など触ってはいけません」と怒られるのだが、
もう止められなくなってしまった。

 もう一方のルカからは毎月一通は手紙が届く。ほとんどが近況報
告と感謝の言葉だ。彼女に会ったことはない。援助を受ける少年少
女には会わない、それが足長おじさんたる貴族の誇りらしい……し
かし私はルカに会いたい。食事をしたり散歩をしたりして、その上
で一言「ありがとう」と言って欲しい。裕福なのを気取って、上か
らの善意を振りかざしたくなかったから……。直接会ったところで
何も変わらないのだろうが、しきたりに沿って慈善したところで、
それはギゼンだと思ったから……。

 猫のルカの名前はルカから取った。ルカに直接会いたいというせ
めてもの願いからである。最初は名無しの猫だったのだが、餌を与
える私の姿が足長おじさんの私の姿にダブって見えた。
 しかし私には猫のルカとの時間の方が遙かに心地が良い。足長お
じさんとして周りから賞賛されるより、ルカのニャーオという生の
声が私にとってどれほど嬉しいことか。もう一方のルカは私に感謝
の気持ちが抱けるのだろうか、そんな疑問まで浮かんでくる。

「たんとお食べ」
と食事の準備をすると、ルカはパクパクと食べ始めた。しっぽを振
り振りしながら、黙々と口を動かし続けた。
「ルカに会いに行こうか?」
とルカに話しかけると、いつもの調子で
「ニャーオ」
賛成してくれてるんだろ。
 ルカに会ったときは正体をばらしてもいいだろう。執事や他の足
長おじさん達に「貴族の誇りを捨てたのか」と怒られるかもしれな
いな。でもルカに満面の笑みでただ「ありがとう」とだけ言っても
らえれば、そんなことも、どんなこともどうでもいい。






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