インディーズバトルマガジン QBOOKS

第8回1000字小説バトル
Entry3

天国と地獄

作者 : 岡嶋一人
Website : http://www.bekkoame.ne.jp/ha/nmatsuda/
文字数 : 934
 その昔、天国と地獄は大変仲が良かった。今のように天使と悪魔
が反目しあう事もなくお互いの領分をわきまえ、おのおのの仕事の
意義ををしっかり守っていた。

 天国と地獄は基本的には似たような作業を行っている。ただ若干
その行程に違いがあるだけだった。天国に来た魂は、疲れを癒され
傷ついた部分を補修され、再生される。地獄に来た魂はこのほかに、
汚れを落とす作業が加わるだけである。ただ、この汚れを落とす作
業はとても大変な作業で、赤い水で洗ったり、火であぶって削ぎ落
としたりと結構な重労働を要求され、天井界では、「きつい、汚い、
危険」の3K仕事などと言われていた。とても、ひ弱な天使には勤
まらない、体力勝負の悪魔ならではの仕事だった。

 また、人が死んで天国に行くか地獄に落ちるかはその人間個人の
自主性に任せられており、決して天使も悪魔もその人生に関与しな
かった。関与しなくとも、善行の者は天国に来たし、悪行をつんだ
者は地獄に落ちてきた。それはとてもバランスの取れた状態で、次
に産まれるべき魂のストックも充分であった。

 ところがある時、人間は薬というものを作り出し、手術という行
為を行うようになり、思うように死んでくれなくなった。魂の供給
が滞り始めたのだ。新しい命のストックは減り、人間界には人が溢
れ出した。

 この事態を重く見た天国と地獄では、この状況を解決する為、そ
れぞれの代表を出し、会議を開く事となった。出席した天使と悪魔
たちの間では活発な意見交換が行われ、その結果お互いに人の人生
に関与しようという結論が導き出された。死を恐れる者に対しては
天使が優しく導き、生に執着する者には悪魔が厳しく連行するとい
う実に、自然なそして、尊厳のある結論である。

 これで昔のように魂を確保できると喜び、会議も終了という矢先、
ある不用意な発言によって会議は大荒れになった。

 その不用意な発言をしたのは天使だった。悪魔の一人がこう質問
した。
「さて、これで旨く行った場合、次の展開としては?」
それに対して、一人の天使がこう言ったのだ。
「あくまでもできると云う仮定の話ですが」
これを聞いた悪魔が怒った。
「悪魔でもとはなんだ。悪魔でもとは」

 結局、会議は物別れに終わり天使と悪魔の対立は今もなお続いて
いる。






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