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第8回1000字小説バトル
Entry30

ひかりの子

作者 : 蛮人S
Website : http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3057/
文字数 : 1000
 どこからか電子音が流れる。
 ホームに現れた純白の流線形は、光児の目の前を厳かに進み、次
第にゆっくりと、長い時間とともに静止した。
 やがて扉は開き、光児は初めての超特急、ひかり号へと乗り込ん
だ。
 デッキの美しい洗面台は豪華ホテルを思わせた。その隣では冷た
い飲み水が紙カップで好きに汲めた。客車への扉は、開けようとし
て伸ばした手の、届く前に開いていた。自動だった。
 鼻を膨らませ、あちこち検分しているうち、光児は窓の景色が滑
り始めているのを知った。
「母ちゃん、もう発車してる!」
 それは彼のよく知る電車のそれとは、全く違った。光児にも、そ
して手にした紙カップの水面にすらも、それは全く気取られなかっ
たのである。
 母親はくすくすと笑い、なお加速を続ける車窓へと視線を戻す。
父親は熱心に外を見たままだった。光児も慌てて席に着き、それに
ならっていた。
 光児の目前を車が飛び、ビルが走る。静寂の速力は鉄橋を駆け、
郊外へと抜け、
(そう、あれは、)
 かつて知る術すら無かったパノラマをもって――
(万博の年だった)
 少年は未来へ、未来へと連れ去られていく――まだ若く――そこ
にいた父母とともに――

 こだま号の狭いシートで、光児は頭を振り、缶ビールの口金に指
をかけた。緩慢な動きで口元に運んだ時、列車が音をたて揺れた。
缶からこぼれた液体が背広の袖から、ふくらんだズボンの膝へと落
ちて濡らすのを、光児はぼんやりと見ていた。新幹線というのは、
いつからこんなに揺れるようになったのだろう。
 経営する会社が二度目の不渡りを出した夜、光児は社にも家にも
戻らなかった。翌朝、彼はこだまの車中で流れる風景を眺めていた。
アナウンスが熱海への到着を告げ、光児はふうと席を立った。
 閑散としたホームで、光児はその時を待った。やがて彼方から見
慣れぬ新幹線、現実離れした尖型が、乾いた唸りと共に現れ、迫っ
た。
 光児は線路に向かって駆けた。後頭の奥で、何かが熱く弾け、ど
っどと疼いている。重い足が勢いづき、震える膝が交互に前へ飛び
出るのを、理性はただ傍観していた。人は死ぬ時、そんな風に動け
たのかと呟いていた。光児は安全柵に足をかけ、身を持ち上げた。
 警笛が、飛ぶ。
 それは音ではなかった。それは速力の壁となって光児を打ち、圧
し倒し、遙か此岸の内側へと吹き飛ばしていた。
 駅員が駆けてくる。光児は腰を震わせながら、ただ、逃げよう、
とだけ考えた。






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