第8回1000字小説バトル
Entry4
短縮授業で早く帰れることになった。理系なので女子は少ない。 めずらしく、進学コースが同じ男子と話ながら駅まで来た。 私の家と逆方向行きの電車がホームに入ってきた時、ガクランの ポケットに両の手を入れた松下君が言った。 「行こうよ。動物園」 彼は、私の答も待たずに電車に乗った。そして、 「行こう」と私を呼ぶ。彼の帰り道も逆方向なのに。 ちょっと迷ったけど、結局私は扉の閉まる寸前に電車に飛び乗った。 彼は、それが当然かのように、うなずいただけだった。 その動物園は、二つ目の駅で降りた小高い丘の上にあった。私も 幼い頃に来たことがある。入口のキリンをかたどった門に見覚えが ある。入ると少し下り坂になっていて、最初にペンギンのプールが あった。水の中をジェット機みたいに泳ぎ回るペンギン達。凄いス ピードだね、と二人でしばらく見とれていた。私は、もう泳ぐには 寒いだろうにと思った。でも、考えてみればペンギンにとっては、 これでも暑いうちかもしれないと気付いた。 ペリカンが曇り空の下でうずくまるように、大きなくちばしをピ ッタリ体に押しつけてじっとこちらを見ていた。松下君は、相変わ らず両の手をポケットに入れたまま、適当な間合いを取って動物達 を見て廻る。女の子を誘っておいて手を繋ごうともしないの?と、 ちょっぴり不満になる。でも…いざとなったら断るくせに、私。 シロクマ君はノイローゼなのかと思うくらい同じところを行った り来たり、同じ動作を繰り返していた。平日の午後の動物園、私達 以外に、ほとんど人はいない。動物のほうが数が多い。もしかした ら、動物達に観察されてるのは、私達のほうかもしれない。そんな 考えが過った。 家に着いて受験勉強をと思ったけれど、便箋に手紙を書く。 『青木君へ 今日、授業が早く終ったので動物園へ行きました。どんより曇っ た冬の空の下で、ペンギンはジェット機のように飛び回り、ペリカ ンは物思う詩人のように私を見つめていました。 誘ってくれたのは、松下君でした。あなたじゃない。 あなたも時間が足りないのだろうけれど…。私は逢いたいです。 勉強すすんでいますか? では』 封をし、明日、青木君に渡そうと鞄に入れる。 数学の参考書を開く。置換積分…、ペリカンの物思いにふけるよ うな姿を思い出す。私と同じかな。声に出して言ってみる。 「私はあなたに誘って欲しいの。 でも、誘ってくれるのは、あなたじゃない」
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