第8回1000字小説バトル
Entry5
「皮肉なものだな」 私は現場の状況を見て一人呟いた。 都内高級マンションの一室。目を剥いて倒れている中年男性。 名前は田辺晴彦、36歳の小説家。代表作は『コタツ殺人事件』と いう、色々な意味で意外性に飛んだ推理小説で、50万部も売れた ベストセラーだ。それ以来、奇抜な内容の推理小説を量産している という話しだ。 その田辺氏の遺体の首にはゴボウが巻きついており、死因はその ゴボウによる絞殺。ゴボウで絞殺できるのかと思うが、実際にされ てしまったのだから仕方がない。 遺体のあった部屋は寝室で、第一発見者の編集者によると、発見時 には出入り口と窓には全て鍵が掛かっていたそうだ。ついでに言え ば、室内には争った跡も荒らされた跡も無い。 まるで、推理小説のような状況で推理作家が殺されたのだから、 皮肉以外の何物でもないだろう。 「皮肉ですか?」 呟きに答えたのは部下の小林だ。若いがそれなりに優秀な奴だ。 「ああ。推理小説家が、密室で殺されたんだからな」 私がそう答えると、明らかに呆れた表情を小林は浮かべた。 「警部、密室だったとは第一発見者の言葉だけですよ」 「しかし、管理人に合鍵を借りて、一緒に……」 「合鍵を持っている可能性もあれば、鍵の掛かった芝居していたの かもしれないじゃないですか」 「むむぅ」 小林に否定され、私は思わず唸った。 「それに他殺でもなさそうですよ」 「なに!?」 驚く私に小林は書きかけの原稿用紙を渡した。それには、『ゴボ ウ使いの罠』と書かれた田辺氏の新作が書かれていた。 「実際にゴボウで人が殺せるか、田辺氏も疑問に感じた。そして、 実際に自分で試してみて、誤って死んでしまった」 確かに、そこには『ゴボウで人が死ぬのか』と登場人物が話し会 っている。 「そうすれば、争いの跡や防御創がない事も理由がつきますし、凶 器がゴボウなのも説明がつきます」 断言する小林。 確かにその可能性は高い。それどころか真相その物の気がする。 だが、本当にそんなオチでいいのだろうか? 「うーむ」 原稿用紙を片手に、私はいつまでもこの密室の謎について考えて いた。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。