第8回1000字小説バトル
Entry6
「いやぁおやっさん、これで五件目ですよ」 ガタイのいいその刑事は、親分の顔を覗き込んで言った。しかし、 当の親分は黙ったままであった。彼は目の前のビルの屋上を見上げ ていた。 「あんな高い所からよくもまぁ・・」 その建物は300階建てで、はっきり言って200階以上は雲に隠 れて見えない日の方が多い。ホトケはどうもそんな建物から飛び降 りた様であった。 「しかし、原形留めてないですね・・当たり前ですけど」 「俺も色々現場踏んでるけど、ここまで悲惨なのはなぁ」 彼はそう言って煙草に火を点した。気を落ち着かせる為にはこれが 手放せなかった。 「彼は落下するスピードとか、地面への衝撃度なんか、きちんと計 算した上で実行したのでしょうかね?」 「さあな・・」 親分は辺りに散らばった破片を見つめていた。想像するだけでぞっ としそうであった。 暫くして、先に到着していた同僚が難しい顔をしながら彼らに歩 み寄って来た。「身元が割れたんだがね・・」と手帳を見ながら喋 り始めた。 「真心愛太郎、21歳、学生。詩や小説といった物が趣味で、近所 の間では変わり者で有名だったらしい」 「おいおい、その・・シとかショーセツってのはこの間も・・」 「ああ、最近の若者の間での流行り物らしい。俺も少し読んでみた が、どうにもこうにも解せん」 その刑事は呆れた様に首を振りながら言った。 「大体真心愛太郎って名前は何だ?」 「それなんだが、どうも・・二十歳の時に自分で改名したらしい」 「いやはや」親分はそう言って頭を掻いた。 「ただ・・最近恋愛について悩んでいると親しい友人に洩らしてい たと言うんだ」 「何だぁ、その・・レン・・アイってのは?」 「さあ・・」 ここ四件の若者による連続飛び降り自殺は皆こんな感じであった。 (最近の、いや、最新の若い者はさっぱり分からん) 親分はもう一本煙草に火を点けた。そして、飛び散った破片の中に チタン製の小さな歯車を見つけて、最近調子の悪い親指の関節には まるかどうかそっちの方が気になっていた。
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