インディーズバトルマガジン QBOOKS

第9回1000字小説バトル
Entry17

グリーンカード

作者 : Bailey
Website : http://members.aol.com/hiroem/
文字数 :
「もうNYの暮らしなんてたくさんだ。」

ある日、キリンはNYのブルックリン動物園の空を見上げてつぶや
いた。
そら高く飛び回るカモメは、都会の灰色に濁った空ではあるが、自
由を満喫していた。

グリーンカードさえあれば、自由にこの国を出ることができる。
デルタに電話さえすれば、アフリカ行きのエアーチケットなんかす
ぐに取れる。
そうキリンはいつも夢見ていた。

でも、なんだかキリンはやるせなかった。
毎日、子供たちの騒がしい声を聞きながら、人間に決められたスケ
ジュール通りの生活。

隣に住まいのあるラクダは、仕事のストレスで、禿げた背中が更に
薄くなっていた。

「あんたもいい加減にしないと、働きすぎだよ。」
キリンはラクダにつぶやいた。

「よけいなお世話さ。こうやってせっせと人間の相手をして能力を
認めてもらえれば、グリーンカードだってきっともらえる。
エジプトの熱い太陽の照りつける砂の上を、いつの日か歩くことが
できるんだ。」
ラクダはぶっきらぼうに言った。

ラクダは愛想の良い笑いを浮かべて、人間の子供たちを背中にのせ
て、せっせと歩いた。
たまに背中を揺すって、乗ってる子供たちを驚かしたりしてサービ
スした。

その数日後、ラクダは突然ばったりと倒れた。

「ほら、言わんこっちゃない。あんまり無理するからだよ。」
キリンは優しくいたわるようにささやいた。

「もう、だめかもしれない。」
ラクダは、か細い声を出して、目をつぶった。

「君は、絶対グリーンカード取って、自由にアフリカとNYを渡り
歩けるようになるんだよ。」
ラクダは最後の力をふりしぼって、キリンにそう言ったあと、黄色
い歯をみせて微笑んだ。

キリンは深いため息をついた。

寒さに震えながらも空を飛び回るカモメや鳩、人間をよけながら公
園をうろうろするリス、食べ残しのマックのバーガーばかり食べて
ちょっとオデブなすずめは、どうしてこんなゴミゴミしたNYにい
るのだろう?
グリーンカードなんか持ってても、俺はここで過ごせそうにない。

「NYしか知らない奴らって俺から言わせれば、かわいそうな奴さ。
俺達は熱い太陽を知っている。空は青いんだって知っている。なー
そうだろ?」
キリンは冷たくなったラクダに問いかけた。

キリンの大きなひとみには大粒の涙があふれだし、まばたきした瞬
間に長いまつげを伝って遠い地面にぽたりと落ちた。






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