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第9回1000字小説バトル
Entry19

次の話題

作者 : 林 忠由
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文字数 : 650
 君が、テーブルに頬杖をついて、少し顎をひいた顔を斜めにして、
ミルクをたっぷり入れたコーヒーカップをゆっくりとかき混ぜて、
スプーンをソーサーにそっと置いて、眉を上げて、目を見開いて、
微笑みながら頷いた時は、僕の話を信じていない時だ。
「こんなこと嘘ついたってしょうがないだろ?」
「でもこの間もねえ……、グレープフルーツが葡萄みたいに木にな
るって」
「それはほんとだったじゃないか。あ、いや、今の話も本当だけど」
 カップに口を付けたまま、君は目許だけで謝った。
「なんか、嘘ばっかり言ってるみたいじゃないか。本当だって」
 銀杏の木に性別があるという話を、君は信じてくれなかった。
「じゃあ実がなるのは雌の木ってこと?」
「葉っぱも違うんだよ。真ん中に切れ込みがあるだろ? あれが雌
の木のほうが深いんだ」
 手振りを交えて必死に話す僕を、まだ君は信じてくれない。
「こうなったら、百聞は一見にしかずだ。見に行こう」
 君は、呆れた風に首を横に振って、コーヒーを飲み干した。
 その喫茶店から二筋ほど西に、ターミナルから真っすぐ南に伸び
ている大通りがある。そこには、左右の歩道に沿って銀杏の木が植
えられていた。
「うわ、すごい」
 通りに出た途端、君の顔は急に明るくなって弾むような声をあげ
た。
「そっか、ここ全部銀杏の木だったんだ」
 鮮やかなまでに延々と続く黄色い帯を、君は信号待ちの間、右に
左に頭を振って眺めていた。
「陽が暮れるとライトアップされるんだ」
「ほんと? 見たいな」
 まだ日没まで二時間もある。今度は嘘でもいいから、次の話題を
探さないと。






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