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第9回1000字小説バトル
Entry2

ババの遺言状

作者 : 大森 柔
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文字数 : 604
   ババの遺言状には、「来世で会いませう」と書いてあるだけで、
僕への言葉は一つも見当たらなかった。―――ばぁちゃん、そりゃ
ないよ。
 ババの自殺の原因は、持病のリウマチに嫌気がさしたことが原因
だとも、愛犬コロの死が、周囲の考えている以上にショックだった
とも言われている。少なくとも僕の両親にとってそれはどうでもよ
いことらしく、関心は遺産をどう分け合うかにあるようだった。―
――そりゃないよな、ばぁちゃん。
 お葬式はババの自宅で行われた。皆一様に悲し気な表情をしてい
る。僕の両親もだ。僕は何だか胸くそが悪くなり、坊さんの読経に
集中することにした。
 ポク、ポク、ポク、坊さんが経を読み上げる。ポク、ポク、ポク、
ポク……いつしか僕は、睡魔に襲われた。

 顔を上げると、ババがご飯を食べていた。膝元にはコロ。
「ばぁちゃん」僕はその次に発しようとした言葉、<死んだんじゃ
なかったの>という言葉をのみ込んだ。―――なるほど、これは夢
なんだ。だとしたら「死」なんて言葉を使うのは野暮ってもんだよ
な。そうだろ、ばぁちゃん。
 僕は目の前の茶碗に盛られたご飯を食べることにした。僕らは、
つまり僕とババは、一言も喋らなかった。コロさえ一言も発しなか
った。僕はご飯を口に放り込んだ。―――なぁんだ、やっぱり夢な
んだ。だってこのご飯、味が全然しないんだぜ。確かに元々ご飯に
味なんてないけどさ、ご飯には『ご飯の味』ってものがあるじゃな
いか。でもそれが全くないんだ、このご飯には。実は少しだけ期待
してたんだな、夢じゃないってことをさ。でもやっぱり死んだんだ
ね、ばぁちゃん。

「……帰るぞ」父の声で僕は目を覚ました。体にお葬式の匂いがし
みついていた。






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