第9回1000字小説バトル
Entry2
ババの遺言状には、「来世で会いませう」と書いてあるだけで、 僕への言葉は一つも見当たらなかった。―――ばぁちゃん、そりゃ ないよ。 ババの自殺の原因は、持病のリウマチに嫌気がさしたことが原因 だとも、愛犬コロの死が、周囲の考えている以上にショックだった とも言われている。少なくとも僕の両親にとってそれはどうでもよ いことらしく、関心は遺産をどう分け合うかにあるようだった。― ――そりゃないよな、ばぁちゃん。 お葬式はババの自宅で行われた。皆一様に悲し気な表情をしてい る。僕の両親もだ。僕は何だか胸くそが悪くなり、坊さんの読経に 集中することにした。 ポク、ポク、ポク、坊さんが経を読み上げる。ポク、ポク、ポク、 ポク……いつしか僕は、睡魔に襲われた。 顔を上げると、ババがご飯を食べていた。膝元にはコロ。 「ばぁちゃん」僕はその次に発しようとした言葉、<死んだんじゃ なかったの>という言葉をのみ込んだ。―――なるほど、これは夢 なんだ。だとしたら「死」なんて言葉を使うのは野暮ってもんだよ な。そうだろ、ばぁちゃん。 僕は目の前の茶碗に盛られたご飯を食べることにした。僕らは、 つまり僕とババは、一言も喋らなかった。コロさえ一言も発しなか った。僕はご飯を口に放り込んだ。―――なぁんだ、やっぱり夢な んだ。だってこのご飯、味が全然しないんだぜ。確かに元々ご飯に 味なんてないけどさ、ご飯には『ご飯の味』ってものがあるじゃな いか。でもそれが全くないんだ、このご飯には。実は少しだけ期待 してたんだな、夢じゃないってことをさ。でもやっぱり死んだんだ ね、ばぁちゃん。 「……帰るぞ」父の声で僕は目を覚ました。体にお葬式の匂いがし みついていた。
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