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第9回1000字小説バトル
Entry20

遊び

作者 : Sagi
Website : http://member.nifty.ne.jp/~SAGI/
文字数 : 994
 「やめて!助けてっ!」
 女の絶叫がこだまする。超高層ビルの屋上。進入を禁止されてい
るその端に一人の女が必死でしがみ付いていた。
 伸びきった両腕とそのか細い十指が、彼女の身体をかろうじて保
っている。だがその状態を保ち続けることの困難さを、その青白い
表情が物語っていた。
「お願い、助けて!」
 屋上には一人の男が立っていた。必死にしがみ付く彼女を見下ろ
し、男は小さな笑みを浮かべている。瞳の奥が怪しげに輝く。
「あんた遊びだって言ったじゃない!シャレになんないわよ!」
 悲痛な叫びが響く。生への執着こそが今の彼女の全てだった。
 男は小首を傾げるような素振りを見せると、膝を折り、彼女の指
先に優しく触れた。もはや色を失った指先は、とても人のものとは
思えないくらい透き通って見えた。
「そう、これはゲームなんだよ」
 言って男は口の端を歪めた。心の底からこの状況を楽しんでいる
ようだ。
 男の手が動く。
「!」
 彼女の顔がいっそう険しくなる。男は彼女の左小指をまず外した
のだった。そして彼女の驚きの収まる前に、今度は薬指をむりやり
引き剥がした。
 ひとつ。またひとつ。
 男は名残を惜しむように――そして楽しむように――彼女の指を
解き放っていく。まさに彼女の命は風前の灯火。声を出したい衝動
に駆られても、その反動で墜ちてゆきそうな気がして、彼女はただ
耐えるしかなかった。
 しかし彼女の力の限界はとうに過ぎていた。身体を支える右手が、
小さく小刻みに震えだすと、瞬間、彼女の全ては開放された――。

「で、どうだった」
 優しい笑顔で男は尋ねた。彼女は呼吸をゆっくり落ち着かせる。
 あの瞬間、支えを失った彼女の右手を男はすばやく掴み、逞しい
その両腕で彼女を引き上げていたのだ。そう、全ては決まっていた。
 最近、世間で流行しているのがこのゲームだった。生と死の一瞬
に何が見えるのか、そんな哲学的な理由から考えだされたのだが、
今では単にスリルを味わうゲームとして定着していた。実際に死者
も多数出ており、ゲームを規制する法案まで議会で可決されるに至
った。まあ、禁断のゲームに魅せられた若者たちにとっては、無関
係なものに違いなかったが。
 落ち着きを取り戻した彼女は、彼女なりの言葉でその一瞬の不思
議な感覚を語った。言葉を紡いで行くなかで、少しずつその感覚が
蘇っているようだった。
「そっか」
 男は満足気に頷いた。
「じゃ、今度オレな」






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