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第9回1000字小説バトル
Entry21

ペチカ

作者 : 鮭二
Website : members.aol.com/Shakeji/papyrus.htm
文字数 : 1000
 この炎が発する音はいったいどこから来ているのだろう? ショ
スタコビッチ伯爵は考えあぐねて顔を上げ、ポケットから小さなほ
ら貝を取り出した。
 ぷおおお。ぷおおぷおおおお。
 そらいそげ、気難しい伯爵さまのお呼びだぞ。そらいそげ、うん
とこさっとこどっこいしょ。
 3万人の小人の召し使いが、伯爵の部屋に整列した。
「これはお呼びで、伯爵さま。いかがでげすか、ちかごろは」と黄
色い小人が3万人を代表して挨拶すると、「いかがでげすか、ちか
ごろは」と残りの小人が声を合わせた。
「まあまあだよ」と伯爵は答えた。
「それで、いかがいたしましょう、伯爵さま」と緑の小人が言った。
「部屋中のダニを全員で退治いたしましょうか」と赤の小人が言っ
た。
「3万人を半分に分けて、ムカデ競走をお見せいたしましょうか」
と青の小人が言った。
 伯爵は力なく首を振った。しかし、それではまるで気まぐれな暴
君みたいなので、
「とりあえず、フローズンヨーグルト」と言った。
「かしこまりました、フローズンヨーグルト!」と黄色い小人が繰
り返した。そして、小人たちはがやがやと囁き始めた。おい、フロ
ーズンヨーグルトってなんだ? あれじゃないの、ほら、メス鮭の
腸に詰まってるやつさ。ちがうよちがうよ、アイスホッケーの得点
王の名前さ。ちがうったら、新しく発売された避妊薬のことだよ。
がやがやがや。
 それから約半年、伯爵は炎を眺め続けた。シベリアに短い春が訪
れようとしていた。

「お待たせしました」と緑の小人が、大きなつづらと小さなつづら
を伯爵の前に並べた。「どうぞ、お好きな方をお選びください」
「うむ、ごくろうだった。もう下がってよいぞ」
 伯爵はつづらには一瞥もくれず、じっと炎を眺めている。
「伯爵さま、恐れ多くも申し上げます。じつは手前ども、この半年
あまり不眠不休の作業態勢でございまして、3万人いた仲間も、今
ではこの15人に減ってしまいました。いえ、家来が主人に命を捧
げるは世のならい。死んでいった者どもも、決して後悔なんぞして
はおりますまい。しかし恐れながら伯爵さま、せめて我らが成果、
少しばかりでも見てはいただけませんか」
 伯爵はそれでも炎から目を離さなかった。この音、なんだ。なん
だ、この音。
 するとその時、背後に控えていたオレンジ色の小人が、突然えい
やっと、炎の中に身を投じた。小人は炎の塊となって燃え上がり、

ごうっと凄まじい音を立ててその姿を消した。






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