第9回1000字小説バトル
Entry24
ねえ、母さん。わたしのこと、許してくれた? 八年ぶりね。笑顔で会えるかしら、ねえ母さん。明日、国に帰る わ。 ダルダ。わたしの故郷。神の子である国王が全権を持ち、神官が 国を統制する。高い高い山々に囲まれた閉鎖的な土地。国境にはつ ねに兵士たちの目が光っている……そんな国。 ええ、母さん。わたしは恵まれていたわね。国を出て、ここで学 ぶことを許してくれた王に、そして神に感謝しなければ。ダルダの ためにならないという理由で、学べるものは限られていたけれど。 年月に区切りはついていたけれど。感謝している。嘘じゃないわ。 ……泣いてなんかいない。ほんとうよ。感謝している。だってわた しはここで、あの国とはちがう自由を知ったもの。心からの喜びも、 恋も、ここに来てから初めて知ったものばかり。けれど明日、国に 帰るわ。……当然よね。わたしのいままでの教育はすべてダルダの 神、王に捧げられる ダルダ。神への生け贄という名のもとに、十二歳の少女が毎年殺 害される国。王の命令がなによりもまさる、そんな国。だからこそ 明日、わたしは命令どおり国に帰るわ。母さん、あなたや、そして 妹たちのために。 誤解しないで。王を、神を責めたりなんかしていない。神を称え なくてはならないのだもの。神はそれだけのことをわたしたちにし てくれるのだもの。生け贄を差し出すのはあたりまえのことよね。 ……わかってる。皮肉なんかじゃないわ。 ねえ、おぼえてる? かつて、わたしが生け贄に選ばれなかった と知ったとき、母さん、あなたはわたしを責めたわね。娘の命がた すかったことを喜ぶのではなく。親不孝な、どうしようもない娘だ とののしった。だからわたしはこれまで、生け贄に選ばれなかった ことを生涯の恥辱だと感じていたのよ。でも、いまならあなたと笑 顔で会えそうだわ。だってわたしはここで、あの国の持たない自由 を、生きることの喜びを知ったもの。いまなら、生け贄に選ばれな かった自分を、うれしく思うもの。母さん。あなたもこの国に来ら れればよかったのに。 母さん。それとも、いまでもわたしのこと、愛してくれている? わたしが生きていること、もう許してくれた?
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